対馬・観音寺から盗難された仏像について、「返還」に前向きな発言をした韓国閣僚が、国内で「親日派(売国奴)」などと集中砲火を浴びている。日本国内では「ついに返還か」と大きく報じられたが、とてもそんな空気ではない。
「劉文化相よ、あなたはいったいどの国の人間か」
「日本の無礼に対し生ぬるい対応、屈辱的とさえいえる」
「当然返還すべき」と話したはずが…
韓国メディアには、こうした激しい「論難」(韓国語で「批判」)の言葉が大量に書き連ねられている。
2013年9月27日、韓国の龍震竜文化体育観光相は、日中韓文化大臣会合のため訪韓した下村博文文部科学相と会談した。この席で劉文化相が対馬仏像問題について、
「当然返還すべきものである」
「韓国政府としては返還に向けた対応についてきちっとしていきたい」
という意向を述べたと、下村文科相が明らかにしている。
問題の仏像は2012年、長崎県対馬の観音寺から韓国人窃盗犯によって日本から持ち去られ、「かつて日本に略奪されたもの」とし、大田地裁が「日本に渡った経緯が明らかになるまで」返還を差し止める仮処分を2月に下し、今なお韓国に留められたままだ。
窃盗犯らの裁判などがまだ続いていることなどを理由に、韓国政府はこれまで明確な態度を示してこなかった。劉文化相の発言は政府関係者として初めての「返還」への言及で、日本国内では、「韓国 仏像返還に向け対応する考え」(NHK)、「韓国、盗難仏像返還に前向き」(時事通信)などと事態打開への期待が高まった。
ネット上でも、「辞表を出せ」「お前は日本の大臣か」
しかしこの発言にはたちまち韓国内から批判が殺到、政界からも、
「世界には15万点、日本には6万点以上も我が国の文化財があるが、その返還は遅々として進んでいないのが現状だ。(仏像を返還すべきだという)劉文化相は発言を慎まねばならない」(野党・民主党の兪銀恵議員)
「国会や国政監査などでも劉文化相の発言は問題になるだろう」(与党・セヌリ党の李明洙議員)
と激しい批判に晒された。ネット上でも、「辞表を出せ」「仏像は正当に取り戻したものだ」「お前は日本の大臣か」などと袋叩き状態だ。
翌28日の会見はこの発言に質問が集中、劉文化相は、
「仏像の返還については、司法当局の判断を尊重すべき。国際規約は、盗難や略奪による文化財は返還すべきというのが原則。我が政府は規範に従い、理性的に行動する」
と返答した。日本では「返還に取り組む考えを改めて強調」(時事)と報じられたが、韓国では「あくまで原則論を話しただけ」という「火消し」発言として受け止められている。いずれにせよ、「真っ当な」発言をしたはずの劉文化相への攻撃は止む様子を見せない。
さらに韓国側の矛先は、「発言を捏造・拡大解釈して問題を大きくした無礼な日本」にも及び、「韓日文化交流の足かせとなる日本の強引なやり方」(中央日報)、「会談相手の下村文科相は代表的な右翼政治家」(釜山日報)などと盛んに書き立てられる。
保守系大手紙は理性的な対応促す
韓国側が返還拒否の根拠としているのは、「日本は仏像を盗んだというが、それ以上に我が国の文化財を大量に略奪してきたではないか。『返せ』というなら、まずはそちらから返すのが筋だ」という主張だ。ただ、さすがに分が悪いとわかっているのか、保守系の大手紙はそろって社説で、
「今必要なのは、どうすれば日本各地に存在する韓国の文化財を取り戻せるかという戦略的な思考だ。文化財の返還を実現するには、まずは私たちが国際社会の常識と慣例に従う姿を示す必要がある」(朝鮮日報)
「くやしいがこの(国際的)原則を適用する場合、浮石寺の仏像は不法搬出と見なされ日本に返すのが正しい」(中央日報)
とひとまず仏像は返した上で、他の文化財の返還要求をすべきとの見解を示している。