空気が霧状に白くよどんで視界が遮られ、道行く人はマスクが手放せない。中国で2013年初頭に猛威をふるった大気汚染が、早くも北京で深刻化してきた。
人体に有害とされる微小粒子状物質「PM2.5」の濃度が最悪レベルを記録したのだ。今後中国全土に広まり、さらには風に乗って有害物質が日本に飛来する懸念が高まる。
夏場でもPM2.5濃度が高いままで、汚染が慢性化
中国気象局は2013年9月29日、大気汚染に関する警報を出した。北京や天津と、隣接する河北省、河南省は高濃度となっており、影響は江蘇省や安徽省まで広がっている。ニュース映像を見ると、江蘇省では煙に覆われたように大気が真っ白で、日中でも視界が10メートルほどにとどまるため、車はライトを点灯しないと運転できない。当局は該当地域の住民に対して、大気汚染から身を守るために必要な処置を講じた上、外出を控えるよう呼びかけた。
中でも北京は深刻だ。PM2.5の濃度は6段階の最悪レベルに達した。東京在住の中国人男性を介して北京に住む3人の中国人に取材したところ、「連続3日間でひどい『霧』が続いている」と話した。一方で、すでに「慣れている」ので騒ぎにはなっていないようだ。現地では大きなニュースになっておらず、むしろ中国のネットメディアが「日本発」で伝えているほどだという。
現時点では、広大な中国大陸全土が同様の状況にあるわけではない。J-CASTニュースが、南部の広東省から香港に移動中だった中国人女性に電話取材を試みると、「大気汚染がひどいという話は、今初めて聞きました」と驚いた様子だった。現地では霧など出ておらず、また8月後半に上海や、北部の遼寧省大連に出張した際も、特に空気が汚れているとは感じなかったと明かした。
ではなぜ北京やその周辺が特に深刻なのか。PM2.5の濃度上昇の原因に挙げられているのが、暖房に使われる石炭だ。とは言え、確かに冬は寒さが厳しい北京でも今は暖房器具が必要な時期ではない。しかし8月1日付の日本経済新聞電子版には、北京では夏場でもPM2.5の濃度が高いままで、汚染が慢性化していると指摘があった。
暖房用の石炭需要は春以降に減ったが、代わりに目や呼吸器に有害なオゾンが光化学反応で発生し、加えて自動車の排気ガスの影響で北京周辺では濃度が下がらなかったのだという。北京に近い河北省には、石炭の消費量が多い製鉄所などの生産拠点が集まっていることも、事態を悪化させているようだ。
高濃度のPM2.5の「帯」が南下して九州北部にかかる恐れ
北京に拠点を置く民間組織「aqicn.info」は、インターネットで中国の主要都市の大気汚染指数(AQI)を公表している。在北京米国大使館の大気汚染観測チームや、北京環境保護観測センターといった団体からデータを入手し、米観光保護庁が定めた「問題なし」「不健全」「危険」といった6段階のカテゴリーを使って、中国主要都市の「汚染度」を毎日表示している。
9月30日16時時点の北京のAQIは「165」で、6段階中4番目の「不健全」だ。前日は「300」に達して最も高いレベルに達していたのと比べると多少は改善されているが、好ましい状態ではない。
他の都市をみると、四川省成都は「163」、天津市は「161」と北京と同じレベルの高い値だ。河北省石家荘は「460」と最も悪い「危険」カテゴリーに、また意外にも広東省深センで「160」と高い値を記録していた。中国当局の公式発表ではなく、また数値も1日の中で大きく変わる場合もあるが、北京以外にも大気汚染が広まりつつあるのが分かる。
中国では10月1日が建国記念日「国慶節」で、大型連休を迎える。工場などが操業停止となるのでエネルギー消費は減るが、連休を利用して北京を訪れる観光客は増える見込みだ。当局が「外出を控えるように」と指示しても、簡単には制御できないだろう。
日本への影響も心配だ。環境省の大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」を見ると、9月30日16時、福岡県田川市でPM2.5が1立法メートルあたり74マイクログラムと比較的高い数値を観測した。一時的なもので必ずしも中国の影響を受けたとは言い切れないが、1月には九州や西日本の観測所で通常よりも大幅に高い値が計測されている。日本気象協会の「PM2.5分布予測」によれば、9月30日18時の予測では、少量が北陸から近畿地方にかかる程度だが、現在北京周辺にある高濃度の「帯」が徐々に南下し、10月3日には九州北部にかかるのではとみられる。