大がかりな舞台装置や映像を駆使した、大規模なコンサートやライブイベントが増えている。
いまやアリーナやドームでのコンサートは年間1089公演(2012年)も行われ、観客動員数もうなぎ登りだ。そんなライブイベントを支えている音響や映像システムの「ヒビノ」の日比野晃久社長に、コンサート・ライブイベント市場の現状と未来を聞いた。
アーチストの多くはもともとライブを重視
―― コンサートやライブイベントが増えています。
日比野 コンサートやライブイベントには、アリーナや東京ドームのような1回5万人以上を集客するような大規模なイベントから、公会堂や小さなコンサートホール、ライブハウスまで、いろいろあります。コンサートプロモーターズ協会によると、2012年の公演本数は2万44本。アリーナ、ドーム公演に限っても1089もの公演がありました。
―― 「CD不況」といわれるように、販売枚数は1998年をピークに減少し続けています。その一方で、ライブの公演は急速に増えています。
日比野 CDやDVDが売れなくなったのが影響してライブ公演が増えていることは間違いありません。しかし、アーチストの多くはもともとライブを重視していますし、活動の中心に据えていしたから、原点回帰したともいえます。いずれにしても、ライブ本数は今後も増えていくでしょう。
―― とりわけ大きな会場でのライブイベントが増えているようです。
日比野 大きなイベント会場は年々増えています。観客動員が多いと興行的にも成り立ちやすいのは確かです。東京や福岡、大阪のドーム球場のほか、2002年の日韓ワールドカップでは6万人超収容の埼玉スタジアムのようなサッカー場が新たにつくられました。2020年の東京五輪が決まり、国立競技場が8万人を収容できるように改修され、ほかにも湾岸周辺には新たな会場がどんどんできます。最近はコンサートの本数が増えて、大きな会場を抑えるのが難しくなっていることが背景にあります。
―― 観客動員数も増えています。
日比野 2012年の観客動員数は前年比16.4%増の3228万人と、初めて3000万人を突破しました。5年前と比べると43.3%増、10年前からは約2倍に増えています。ライブを観に来る人の世代が広がったことが大きく、10代、20代から50代、60代まで、じつに幅広くなり、また切れ目がなくなりました。例えば、矢沢永吉や浜田省吾のコンサートには親子が同じTシャツを着て、会場にやって来ます。親が聴いていた音楽を子どもも聞いてコンサートに足を運ぶ。そんな光景はめずらしくなくなりました。
―― 原因はなんでしょうか。
日比野 インターネットですね。
―― そうですか。CDやDVDの売り上げはネットの影響で減ったのでは?
日比野 ネットはコンサートチケットの購入に、プラスに働きました。かつてはいちいちプレイガイドに並んで買わなければなりませんでした。会場から遠い地方の人や、コンサート情報の入手が遅れた人はそれだけでチケットが買えませんでした。ところが、いまはインターネットで検索すれば、情報はすぐに入手でき、チケットの発売日も教えてくれます。ファンクラブに入会していれば、優先的に購入できたりもします。チケットが買いやすくなったことは、観客増に結びついているのです。
―― そうした状況の下、音響技術はどのように変わってきたのですか。
日比野 なんといってもデジタル化です。音を面から点に展開できるようになり、聞きづらい場所がなくなりました。たとえば武道館ライブというと、ひと昔前はアリーナと1階席、2階席によって音の良し悪しがまったく違っていました。2階席などは反響が大きかったり音が遅れて聞こえてきたりしましたが、いまでは2階席でもステージの後ろ側でもCDを聴いているように聞こえます。
―― 映像はどうでしょうか。
日比野 コンサートの映像といえば、かつてはアーチストが演奏している姿を大画面で映し出すのが定番でした。それが最近では、さまざまな映像を駆使して「見せる」ために、アーチスト自身が工夫を凝らして演出しています。もちろんアーチストの意識もありますが、技術的にはLEDが使用されるようになったことが大きい。小さく、軽いので画面が大きくなっても大丈夫。これによって機材も飛躍的に軽くなりました。
ライブのためにつくられた機材は、今も進化しています。4K、8Kといった技術もその一つです。高画質で、より奥行きを感じるリアルな映像を映し出すことができ、これまでとはまた違った演出が可能になります。ライブの魅力が増すといっていいでしょう。