農林水産省の男性キャリア官僚(57)が、管理職を外され「専門スタッフ職」への異動となったことを不服として、国を提訴した。
男性官僚はこの人事を「民間の判例をみても不利益」な不当降格だと主張し、異動の取り消しや人事制度そのものの見直しなどを求めているという。この「専門スタッフ職」、そこまでに酷なものなのだろうか。
「天下り」削減のため2008年度に導入
課の同僚たちから、遠く離れたフロアの一角にその個室はある。入省30年あまり、農政一筋に勤しんできた男性に与えられたのがこの職場だ。働くのは自分1人しかいない。国の不当を訴えながら、男性は黙々と、調査研究の仕事を続ける――
朝日新聞は2013年9月25日付朝刊で、そんなベテラン官僚の姿を報じた。
記事によれば、男性官僚は1980年に東大法学部を卒業して入省、本省課長などを歴任してきたが、2011年1月、非管理職の「政策情報分析官」への異動を命じられたという。
これは、「天下り」防止のため導入された「専門スタッフ職」の1つだ。中央官庁ではポスト不足などの問題から、「事務次官レース」に敗れたキャリア官僚が定年を待たずに退職する慣行があり、これが天下りにつながっていると指摘されてきた。
これを是正するため、管理職からは離れるものの定年まで勤務が可能な専門スタッフ職が2008年度から導入された。男性の政策情報分析官を始め、
「××検査計画官」
「××分析専門官」
「××法制研究官」
といった具合に各省庁にポストが置かれ、現在200人余りがこの職にある。知識や長年の経験を生かし、専門分野のプロフェッショナルとして国を支える――そんな役割が期待されるポストだ。今回の訴訟をいち早く報じた朝日新聞も、創設当時は「当然であり、遅すぎたぐらいだ」(07年8月12日付朝刊社説)と歓迎している。
事実上の「窓際族」「問題職員の隔離」?
しかし男性はこの制度を、国家公務員法が制限する「降格人事」と主張する。男性は自分には降格されるような落ち度はないとし、人事院にも審査を求めたが門前払いにされたという。朝日新聞の取材に対しても「このような制度を乱用されると上司にモノが言えなくなる」と憤りを隠さない。
近年では民間企業での「追い出し部屋」が相次いで問題化していることもあり、男性への同情的な声も目立つ。一方で人事院によると、諸手当を含む専門スタッフ職(平均年齢55.1歳)の平均給与月額は約54万円だ。これから見ると、2割減ったといっても、年収はおよそ800万円に達すると推測される。キャリアなのでもう少し高いかもしれない。
対して50~60歳前後の従業員を管理職から外す「役職定年」を設けている民間企業では、約8割が給料の「75~99%カット」を実施しており、「50~74%」まで下げる例も2割に及ぶとされる(人事院調べ)。
専門スタッフ職制度に関しては、2010年、当時の菅内閣がこの枠の拡大を目指している。この際には自民党などから、「高給の窓際族」(小泉進次郎衆院議員)といった批判があり、結局断念に見舞われた。