藤原ヒロさんの漫画「会長はメイド様!」の最終回が、掲載誌発売前にインターネット上に漏えいした。しかも登場人物のセリフの中国語訳まで施されていたという。
映画や楽曲のデジタルファイルがネットに違法投稿されるケースはたびたびある。ただ今回、藤原さんはパソコン(PC)上で作業しておらず、編集部へは紙の原稿を渡したというから、どの過程でネットに流れたのか謎を呼んでいる。
作者が担当していない雑誌の表紙まで漏えい
藤原さんはツイッターで2013年9月22日にこうつぶやいた。
「本当に不思議なんだ…今日早朝の時点で、もう中国語に翻訳された最終回原稿が違法アップロードされてるんだぜ…公式発売日は明後日のはずなんだけどな…どういうルートなんだろな…しかもどうやら印刷されてないデータの時点での原稿画像だぜ」
「会長はメイド様!」が掲載されている「LaLa」11月号の発売日は9月24日だ。発売2日前というのも驚きだが、藤原さんの説明のとおりなら「犯人」は、雑誌が書店に並ぶ以前、印刷される前のデータを入手してネットに違法投稿したことになる。
ツイッターのやり取りで、藤原さんのPCがウイルス感染や不正な侵入を受け、そこから漫画のデジタルデータが盗まれたのではと問う人もいたそうだ。だが「紙の原稿に描いて、それを編集部に届けている」とこの説を否定する。しかも流出した中には、藤原さんが担当していない雑誌の表紙や口絵ページも含まれており、「『流出元は私の仕事場じゃない』と断言できる」と主張した。
ネット上を探してみると、確かに「中国語版・会長はメイド様!」を掲載している中国語のコミュニティーサイトが見つかった。日付は9月22日の16時9分となっている。藤原さんが発見したもの以外に、拡散しているようだ。「LaLa」のカラー表紙を含めて鮮やかな色合いで、雑誌のスキャンとは別物だと分かる。キャラクターの吹き出しのセリフは、台湾や香港で使われている「繁体字」に訳されていた。また、コマ割りされたところどころに見慣れない中国語とロゴ、URLが刻印されていた。これは原画にあったとは思えない。
このURLをたどってみると、今度は中国で使われる「簡体字」のサイトが現れた。日本のアニメを中心としたコミュニティーサイトで、「会長はメイド様!」のファンも集まっている。最終回の「中国語版」カラーイラストも一部掲載されていた。どういう関係かは不明だが、何者かが本物のデータをこれらのサイトに上げて、中国語の訳が付けられたと考えられなくもない。
過去には「早売り」の雑誌をスキャンして流出
藤原さんは、編集部には紙の原稿を渡したと発言している。通常、担当編集者は原稿を受け取ると、チェックして印刷所に入稿、戻ってきたものの状態を確認して校了する。印刷所では製版、刷版といった工程を経て印刷に移る。刷りあがったあとは他の作品などと合わせて製本し、書店へ流通するわけだ。
この一連の流れの中で何かが起きた。入稿時には紙原稿がデジタルデータ化されているはずだ。作業中に誰かが悪意を持ってネットにデータを上げた、もしくはデータ処理の際に外部からサイバー攻撃を受け、盗まれた――。もちろん版元も印刷会社も、情報漏えいには万全を期しているはずだし、確たる証拠は今のところ見つかっていない。ただ、印刷後の雑誌をスキャンしたものではなく、原画のデータが流出したとすれば、製本前に何かが起きたと推測してもおかしくない。たまたま原稿が道に落ちていて、拾った人がネットにアップしたということもありうるが、可能性は限りなくゼロに近い。
過去にも発売前の漫画をネットに流出させたとして、摘発された事例がある。実は雑誌の場合、ルール違反ではあるが一般発売日よりも前に店頭に並べる書店は存在するようだ。こうした販売店を利用したのか、入手した雑誌をスキャンしたりデジカメで撮影したりして、ファイル交換ソフトでばらまく、あるいは動画投稿サイトでページごとに見られるように小細工するという事件が起きている。また全く異なる例だが、漫画家が出版社に預けていた原稿が、知らないうちに古書店で売られていたこともある。出版社は倒産し、漫画家は原稿の返却を求めて古書店を相手に訴訟を提起、最終的に和解した。
だが今回のように、印刷前のデータ段階でネットに漏れたというのはまれで、藤原さんはしきりに「不思議だ」とつぶやいていた。海外に読者が広がっているのを喜んでいるだけに、違法にアップされて勝手に翻訳された自作がファンの目に触れるというのは不本意だろう。