東京五輪の経済効果試算、楽観と悲観 東京都は3兆円、一方で最大150兆円

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   2020年の東京五輪開催に向けた経済波及効果の官民の試算が波紋を広げている。東京都は2013年から2020年までに全国で約3兆円、約15万人の雇用を生み出すと公式に発表した。

   これに対して、日本経済新聞が「民間では最大150兆円規模との見方もある」と報じたのをはじめ、民間シンクタンクの間では「開催までの7年間で7兆~12兆円の景気浮揚効果が期待され、40万~70万人の雇用創出効果が見込まれる」(日本総研)など、東京都を上回る試算が目白押しだ。しかし、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が「3兆円との五輪経済効果は楽観的すぎないか? 都の試算に懐疑的な見方もある」と伝えるなど、控えめな都の試算にさえ異論が出ている。

WSJ「熱い期待が見当はずれなのは明らかだ」

   都の試算は、2020年五輪で用いられる競技会場や選手村などの施設整備(資本投資)や、大会運営費、観戦客の支出や五輪グッズやテレビの購入費などが対象だ。「五輪開催にかかわらず建設される道路や鉄道などインフラ整備費は対象外」という。7年間の波及効果は全国で約2兆9600億円(うち東京都で1兆6700億円)と、単純計算で日本のGDPの0.62%に相当する。

   これに対し、WSJはキャピタル・エコノミクスのマルセル・シーリアン氏の見方を紹介。計画されている都の五輪開催費用の総額について「大会運営費と資本投資を含めてわずか7200億円で、開催前に実施予定の資本投資を除けば、その数字は4600億円に低下する」として、「熱い期待が見当はずれなのは明らかだ」と指摘している。さらに「五輪運営でありがちな予算超過を織り込んだ場合でさえ、開催までの7年間の1年当たり支出はGDPの0.04%程度の規模だ」としている。

都の試算だと年当たり0.43兆円と小額

   確かに都の約3兆円の試算は7年間の総額で、年間当たりだと0.43兆円と小額。総額約3兆円の経済波及効果については「相対的に大きいかどうかは議論が分かれる」(第一生命経済研究所・熊野英生主席エコノミスト)という。これは東京都とオリンピック・パラリンピック招致委員会が「1964年の東京五輪の施設を再利用し、コンパクトな会場設置」を目指し、施設整備費を低く見積もっていることも影響しているようだ。英国政府が今年7月、ロンドン五輪の経済波及効果(2004~12年までの9年間)をGDPの2.0~2.1%(310億~330億ポンド)とし、36万~40万人の雇用を創出したと発表したのと比べると、東京都の試算が見劣りするのは否めない。とりわけ、五輪誘致を進めた経済界などには不満が大きい。

   このためか、日本経済新聞は、大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストの試算として「今後7年間に観光産業が倍増すると想定し、経済効果は約95兆円と分析する。安倍政権の国土強靭化計画が進めば約55兆円の効果を見込めるため総額150兆円規模になる」との見方を紹介している。これにはオリンピックとは直接関係のない首都高速道路などの整備費用も含まれている。日経以外の一部マスメディアも木野内氏の150兆円の試算を引用しており、東京五輪の経済波及効果を期待しているようだ。

老朽化したインフラの更新を進めるべきとの主張も

   国立社会保障人口問題研究所によると、東京五輪が開催される2020年の日本の人口は現在よりも2.5%減少し、超高齢化社会が進む。2014年4月から消費税率引き上げを目指す安倍政権は、五輪開催に当たる2020年度に「基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化」という財政再建の目標を国際公約として掲げている。

   しかし、自民党などは五輪に合わせ、首都高速道路など老朽化したインフラの更新を進めるべきと主張。五輪にかかわらず必要とはいえ、消費税率を10%まで引き上げても、景気低迷で税収が伸び悩めば、公共事業の財源は引き続き国債発行に頼らざるをえず、財政運営を懸念する声はエコノミストの間に多い。民間試算のように五輪をテコに景気拡大の好循環を作り出せるのか。アベノミクスの真価が問われるのはこれからだ。

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