自費出版を手掛ける日本文学館(東京・新宿)が、消費者庁から特定商取引法違反で3か月間の一部業務停止命令を受けた。自費出版に関して電話で違法な勧誘や、不実な内容を告げたことが処罰の対象となった。
過去にも同様のトラブルはたびたび起きている。今回はどんな手口が問題だったのだろうか。
63万円のところを「21万円でいい」と告げる
日本文学館のサービスに「ノベル倶楽部」がある。ウェブサイトに「ゼロから始める作家デビュー」とうたわれているように、原稿執筆にあたっての基本的なサポートから作品の添削、編集、さらには印刷や書店流通、宣伝活動、売上金の精算までをパッケージで提供する。
価格についてウェブ上には「注文住宅と同じように、ある意味フルオーダーともいえる書籍製作の費用は一概には決められません」とあり、直接問い合わせるよう記載されている。
消費者庁の2013年9月19日の発表によると、「ノベル倶楽部」はトータルのサービスで、費用は63万円に上る。だが勧誘の際には添削だけが受けられるかのように説明し、全額ではなく「21万円あればいいです」とウソの内容を告げていたと指摘した。
勧誘の対象は、同社が開催している小説やエッセイ、詩のコンテストに応募した執筆者だ。担当者が電話をかけ、特別に選ばれたような印象を与えつつ自費出版へと誘導したという。「収入が一銭もない状態でローンを組むこともできない」と明確に拒絶の意思を示しても、しつこく勧誘を続けたり、複数回に渡って電話をかけたりした。
ある人には「添削を受けるのにまず21万円、その後出版するなら42万円払うってことで、もし出版をしなければ、残りのお金は払わなくてよい」と告げたという。お金がないと何度断っても「チャンスを逃さないほうがいい」「明日食べられなくなったら、お金を返す」とまで言ってきたそうだ。明らかに法律上禁じられている「再勧誘」にあたる。この人物は仕方なく21万円を払ったが、後から契約書をみると「添削のみ」とは書かれておらず、出版しない場合の残金の取り扱いにも触れられていなかったため、慌てて消費者センターに駆け込んだのだという。
別のケースでは、「ノベル倶楽部」を利用するにあたって「21万円を払ってもらったら42万円はいずれ、おいおいでいい」と担当者が言い、「印税が入ってくるので、支払いに充てられます」とたたみかけた。さらに年金生活者の作品応募者にも同様の勧誘を行い、「お金がない」と断る相手に「一旦お金を振り込んでもらえたら、口座に戻す」との趣旨を何度も繰り返したそうだ。これを信じて21万円を振り込んだところ、戻るどころか最終的に追加の請求書が送りつけられてきたという悪質な事例も紹介されていた。
「才能がある」と気分を高揚させて誘い持ちかける
いずれも担当者の粘着質な電話攻勢、相手の金銭的事情などお構いなしの身勝手な勧誘だ。年金生活者の事例は、「大賞に選ばれると無料で出版できる」という特典のあったコンテストに応募したところ、担当者から「入賞しました」と電話がかかってきたという。「大賞」とは言わず、相手の誤解を誘いながら有料サービスの利用に誘導したようにも思える。
こうしたトラブルは、これまでに何度か報告されている。2008年に経営破たんした新風舎は、自費出版で事業を拡大し2006年には新刊本の点数1位にまで上り詰めた。一方で契約をめぐって訴訟に発展するケースも複数あったという。
2007年11月9日には国民生活センターが「自費出版に関する相談が増加」との注意喚起を出している。出版社主催のコンテストに応募したところ、大賞は逃したが「いい作品なので自費出版しないか」「才能がある」などと気分を高揚させて誘いを持ちかけることが多いとの報告だ。年齢は60~70歳代以上の高齢者が35%に達している。
ここで紹介されている事例でも、契約が成立するまではしつこく電話をしてくるが、その後は一転して事業者の対応が不誠実となり、「予定通りに本ができない」「宣伝用と称して大金を支払ったのに使途が不明」といった問題が指摘されていた。消費者に対しては「簡単に本が売れるわけではないので、冷静に考えること」「複数の事業者から見積りをとって、金額や内容を比較する」と助言をしている。
インターネット上にも、似たような被害を受けたと主張する人の書き込みが見られる。最近は自費出版を行う大手出版社も少なくないが、強引な勧誘や必要以上に甘いほめ言葉、金銭をめぐる根拠のない約束には警戒した方がよいかもしれない。