4Kテレビが好調だ。薄型テレビ全体での割合はまだ小さいが、高価格にもかかわらず大型モデルの中では既に存在感を発揮し始めている。
地上デジタル放送(地デジ)開始前の「買い替え特需」が終わって以降、薄型テレビのニーズは冷え込んだままだったが、4Kが国内メーカーの救世主になるのではとの期待が膨らんでいる。
薄型テレビ販売動向2年1か月ぶりプラスの「立役者」
4Kテレビは、フルハイビジョンの4倍の高精細映像を映し出せる。ソニーや東芝、シャープといった国内主要メーカーが既に販売しており、パナソニックも市場参入を明らかにした。米ラスベガスで2013年1月に開催された世界最大の家電見本市「CES」では日本勢に加えて、韓国サムスン電子やLGエレクトロニクス、中国TCLといったライバルも続々と新製品を展示した。
現状では大型モデルが主流で、価格は30万円以上とまだ「お手頃」とは言えない。ここで興味深い数字がある。調査会社BCNのアナリスト、道越一郎氏は9月19日の記者発表会で、全国の大手家電量販店のデータを集計したところ、4Kテレビの2013年8月時点での販売台数は、50型以上の薄型モデル全体で7.2%にまで増えていると説明した。主要メーカーが本格参入を始めたのが2013年からという点を考慮すると、生まれたての市場で全体の1割弱にまでシェアを伸ばしているのは注目に値する。試験放送は2014年開始の予定で、現時点では4K放送が始まっていないにもかかわらずだ。
薄型テレビ全体の市場押し上げにも貢献している。GfKマーケティングの9月10日発表の調査結果によると、薄型テレビの販売動向は金額ベースで回復基調にある。8月は前年比2.6%減ながら、年初の同31.5%と比べて大幅に改善し、9月第1週は同3.6%増と2年1か月ぶりにプラスに転じたという。原動力となったのが、高額ながら売れ行き好調な4Kテレビというわけだ。
BCNは、薄型テレビ全体では2013年に入って、25万円以上の高価格帯の販売が伸びていると分析する。実はデジカメやパソコンといったデジタル家電も同じ現象が起きており、消費者はこれまでの安価な製品から、4Kテレビのように従来品より価値の高い「プレミアム製品」に流れ始めているという見立てだ。今後のテレビ需要を刺激するイベントとして、2014年のサッカーワールドカップ・ブラジル大会、2016年のリオデジャネイロ五輪に続いて2020年に東京五輪の開催が決まった。このころはちょうど、地デジ開始前に購入したテレビの買い替えサイクルとぶつかる。BCNでは4Kテレビが「2016年あたりから普及に加速度がつき、2020年には当たり前になる」と予測する。
専用メガネ不要、「ながら視聴」できるのが違い
4Kテレビ同様、3年ほど前に華々しく「デビュー」したデジタル家電がある。3Dテレビだ。立体映像を取り入れた映画が人気を集めたのを契機に登場し、国際家電見本市でも注目度は高かった。電機メーカーはこぞって新製品を開発、発売したものの、話題性の割には消費者が飛びつかず、ヒット商品とはならなかった。4Kテレビは、このときの二の舞になる心配はないだろうか。
道越氏が言及したのは、3Dテレビで用いられる「専用メガネ」だ。テレビは、何か別の作業をしながら楽しむ視聴スタイルが多い。いちいちメガネをかけたり、テレビの前にじっと座って見なければならなかったりと視聴者に一種の負担を強いるのが、現行の3Dテレビが伸び悩んでいる原因とみる。また3D映像を映し出す受像機としての完成度が高いとは言えず、技術的な改良にもう少し時間が必要だとも指摘した。これに対して4Kの高精細な画質は、むしろ3Dに近いイメージをも再現するほどきめ細かだと評価する。従来のテレビと同じように「ながら視聴」できるため、普及へのハードルは3Dテレビより低そうだ。
ソニーをはじめテレビ事業で不振が続いていた国内メーカーにとっては、4Kテレビを起爆剤に攻勢に出たいところだ。だが海外勢、特に中国メーカーの参入で価格破壊が起きればあっという間に製品は陳腐化し、消耗戦となる。従来型の薄型テレビでの競争のように「いつか来た道」をたどる恐れが高い。道越氏はこの点を認めつつも、消費者の購入時の優先順位が低価格品から、高額でも価値の高い製品に移ってきていることを踏まえると、国内メーカーは安売り合戦を避けて、品質や付加価値といった部分で勝機を見いだすことができるのではないかと述べた。