経済産業省がガス小売りの全面自由化に動き始めた。2016年にも全面自由化される電力の小売りと歩調を合わせて、都市ガスの全面自由化を進める。
電力会社とガス会社の相互参入を促し、料金引き下げやサービスの向上につなげる狙いだ。2013年10月にも学識経験者や消費者、エネルギーの専門家らによる有識者会議を設け、現行制度の問題を検証した上で、地域独占を認めたガス事業法を改正する。
「地域独占」が認められる小口契約を見直し
ガス事業は1995年に年間使用量200万立方メートル以上の大工場などで自由化が始まり、1999年に100万立方メートル以上(百貨店など)、2004年に50万立方メートル以上(中規模工場など)、2007年には10万立方メートル以上(小規模工場など)も自由化され、利用者とガス事業者の交渉で料金を決められるようになっている。
残る10万立方メートル未満の小口契約(一般家庭や商店など)は未だにガス会社の「地域独占」が認められていて、消費者は自由にガス会社を選べない。今回見直すのは、この小口契約だ。
この小口のガス料金は現在、事業者の必要経費に一定の利益を上乗せする「総括原価方式」で決められている。実際、東日本大震災後にLNG価格の高止まりと円安のため、東京ガス、大阪ガスなど大手4社の平均で1割以上値上がりしている。
14年度の値上げ申請から新しい査定を導入
そこで、自由化に向け、経産省がまず取り組んだのが、この料金認可にあたっての査定の見直し。省内の「ガス料金制度小委員会」で新査定基準を検討してきて、このほど、改定案がまとまった。原価の大部分を占める液化天然ガス(LNG)の調達を効率化するよう求めるほか、設備調達は一般競争入札を原則とし、広告費や寄付金は必要な原価と認めないなど、東日本大震災後に査定を厳しくした電力と算定の条件を合わせる内容で、2014年度の値上げ申請から新しい査定を導入する。新査定によって料金引き下げを促し、全面自由化につなげる、という道筋だ。
政府は電力については2016年に小売りを全面自由化し、2018~2020年に料金規制の撤廃や発送電分離などの電力システム改革をする方針を打ち出している。電気に続いてガス業界でも改革を進めるのは、新規事業者の参入といっても、当面は電力とガスの相互参入が柱になるとみられるからだ。
カギになるガスパイプラインの扱いも不透明
ただ、電力とガスでは業界の地図は大きく異なる。大手10社の寡占が確立している電力業界に比べ、都市ガス業界は全国に209の事業者があり、零細企業や赤字の事業者も多い。ここに新しい料金査定を適用すると、地方の中小事業者などは燃料費上昇分を価格に転嫁しにくくなる。このため経営悪化する業者が続出して業界再編が加速する可能性がある。
また、競争促進のためのカギになるガスパイプラインの扱いも不透明だ。電力の送電網開放は、自由化の「本丸」として長い論争が続き、一応、発電と送電の分離の方向に動き出しているが、自民党内の抵抗が根強く、計画通り、送電部門を別会社に分離できるか、懸念も残っている。
ガス業界も、送電網に相当するガスパイプラインはガス会社が保有・管理している。これを新規参入したい電力会社や石油会社など他の事業者にどう開放するかのルール作りはこれからのこと。電力の例を見ても「議論は簡単にはいかず、中小事業者の経営問題とも相まって、自由化のスケジュールに響く可能性も否定できない」(霞が関関係者)との声もある。