「答案を埋めれば単位はもらえる」「必ず『優』が取れる楽勝科目」。ひと昔前まで大学の試験にはこんないいかげんさがつきまとっていたようだが、最近の大学は成績評価基準が厳しくなった。毎回出席してきちんと授業を聞き、テストやレポートで一定の結果を出さないと、単位を得られない大学もある。
こうした中、東京大学でも2014年度夏学期から成績評価を見直し、「優」の割合を履修学生の3割に限定する制度を全学部に導入する。
「後期でも優3割すごく困るんですけど…」
東大は、3・4年生にあたる後期課程で一部学部に適用していた「優3割規定」を全学部に拡大する。学生がつくる「東京大学新聞」(2013年9月17日発行)が報じた。7月9日に行われた教育運営委員会の「学部後期課程教育における成績評価の改善に関する申合せ」で決定したという。
「優」の割合を制限する「優3割規定」は、入学後2年間在籍する前期課程では、すでに導入されており、「原則として優を受験者数の3割程度とする」という申し合わせがある。だが3・4年にあたる学部後期課程では、一部の学部を除いて成績評価の割合に制限がないため、「優」の学生が何人も出る「楽勝科目」も存在していた。
この件が報道されると、ツイッターで東大生は、「後期でも優3割すごく困るんですけど…」「何が後期課程でも優3割だよ死んでくれ本当に死んでくれ」などとつぶやき、困惑しているようだ。実際、東大文学部出身の20代女性は成績評価基準について、「文学部は『優3割規定』がないから学部後期課程は楽だった」と話す。成績評価基準を変えることで、限られた「優」をめぐる競争心を掻き立てる狙いもありそうだ。
こうした成績評価基準の見直しの流れは、東京大学などの国立大学に限らず、私立大学も含め、ここ5~10年続いている。早稲田大学の政治経済学部では、2005年から成績評価割合をウェブサイトで公開している。慶應義塾大学の総合政策学部・環境情報学部(SFC)も同様で、A、B、C、Dの4段階評価で、特に優秀なものをA(成績上位者20%)とし、
「社会の信頼に値する成績評価の実現をめざして、各教員の個別的な評価だけにたよることなく、すべての科目に下記の評価基準をガイドラインとして設定し、これに則って成績評価が行われています」
という文章を掲載している。
教育改革で大学への「質保証」要請
ベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室コンサルタントの村山和生さんによると、大学の成績評価基準の見直しは、「近年の教育改革のなかで、学生が大学できちんと学んでいるかどうかを示す『質保証』が求められている」からだという。
大学全入時代を控え、これまで文部科学相の諮問機関である中央教育審議会は、「教育内容・方法、学修の評価を通じた『質』の管理が緩い」などと指摘してきた。村山さんは「大学の内部だけでなく文部科学省、経済産業省などの省庁からも『質保証』のニーズがあり、社会的な要請となっている」と話す。
「質保証」の先進的な取り組みとしている組織として一橋大学がある。2010年度から、欧米で一般的な成績評価値であるGPA(Grade Point Average)を導入し、卒業条件にする制度をスタート。GPAは取得した単位の質を表す指標で、一定の数値を下回ると同大学を卒業することができない。入学時だけでなく、卒業時にも高いハードルを課している。