黒田東彦日銀総裁が、予定通り消費税増税することを政府に促す姿勢を強めている。安倍晋三首相は2013年10月1日をめどに最終判断する方針だが、なお先送りの余地を残していることに対し、国債市場の混乱を懸念し危機感を募らせているようだ。
権限外のことへの「口出し」に、日銀内にも驚く向きもありき、財務省のDNAを指摘する声もある。
記者会見で雄弁に持論を展開
9月5日、日銀が金融政策決定会合を開いた後、黒田総裁の記者会見が開催された。ただ、金融政策自体は「戦力の逐次投入はしない」との方針のもと、4月4日の「異次元緩和」導入以降、一歩も動いていない。このため、会見でのやりとりの焦点は「景気判断の変更」といった点に限られる。「旬」の経済政策に関する考え方について質問が相次ぐことも多く、この日は「消費増税」の質問が繰り返された。
予定通り2014年4月に消費税増税するかどうかは、まさに政府というか安倍首相が経済情勢などを見極めて判断するものであり、日銀総裁といえどもとやかく口を出すようなことではない。霞が関の官僚生活が長かった黒田氏でもある。その辺りの「分」をわきまえ、適当に質問をかわすのが普通だと思われるが、「政府において経済状況などを総合的に勘案して判断される」との前提のもと、雄弁に持論を展開した。
まず議論の前提として、予定通りに消費税を8%に引き上げたとしても、「景気が腰折れするとは思っていない」「経済の前向きな循環は維持される」との考えを強調した。増税に伴い既に住宅市場では駆け込み需要が発生しており、この反動が2014年4月以降に現れると見られているが、それを踏まえても、「0%台半ば」(黒田総裁)とされる日本経済の潜在成長率を上回る実質経済成長率(日銀が「展望リポート」で示した2014年度1.3%)を達成する、との日銀のシナリオ通りに進むとの見方を示した。「デフレ脱却と増税が両立する」との考えからだ。