米アップルが新型「アイフォーン(iPhone)」を発表した。現行モデル「iPhone5」の後継機種に加えて、低価格な端末も出る。
日本国内では、NTTドコモがiPhone販売に参入したことが大きな話題となっている。契約者数で苦戦が続いてきたドコモにとっては、「廉価版」が巻き返しの切り札になり得ると専門家はみる。
都市部と比べてスマホユーザーが少ない地方
廉価版の正式名称は「iPhone 5c」。性能は「5」とほとんど変わらないが、電話機本体の素材を、従来のガラスとアルミではなくプラスチックに変えて端末の価格を抑えている。重量は「5」より20グラム重い。ピンクや青、黄色など5色のカラーをそろえたのも、これまでとの大きな違いだ。
「5c」のターゲットは「新興国で高価格のスマートフォンには手が届かなかった消費者」(NHK)、「新興国や価格に敏感な消費者」(産経新聞)との見方がある一方、日本経済新聞は「新興国を席巻する低価格機とは一線を画した」と報じた。アップルの発表によると、最も安い16ギガモデルが2年契約を前提とした場合に99ドル(約9900円)。同時発表の「5s」の同型モデル199ドル(1万9900円)の半額ではあるが、必ずしも格安とは言えなさそうだ。
日本国内では、現段階で携帯電話各社の料金プランの詳細が未発表なので流動的な面はある。とは言え、1年前に発売した「5」の利用者層は、機能がアップした5sならともかく、本体色以外に特段の違いがない5cに2年契約を破棄してまで乗り換えるとは、よほどの特典がない限り思えない。このためターゲットはおのずと新規契約者か、従来型携帯電話(ガラケー)からの機種変更を考えているユーザーがメーンになるだろう。
ポイントとなりそうなのが、iPhone販売に新規参入したドコモだと話すのは、青森公立大学経営経済学部准教授の木暮祐一氏。その契約者層は若者から高齢者まで幅広い。一方で地方ではスマホの普及率が都市部と比べて低いが、地方で多くの利用者を抱えているのがドコモだ。「ドコモの通信網に信頼を置いている、またそのブランド力に魅力を感じるといった人が多いのです」。今もガラケーを使っている「スマホ乗り換え予備軍」がiPhone、しかも手頃な価格の端末の登場で一気に機種変更に動く可能性があると指摘する。
iPhoneの料金プランはアンドロイドスマホより安い
実はiPhoneの国内での価格は、海外と比較して安い。端末価格だけを考えた場合、米AT&Tは、「5」の16ギガモデルが2年契約で199.99ドル(約2万円)が基本のようだ。だがソフトバンクモバイル(SBM)やKDDIの料金プランを見ると、同じ条件なら2年契約で実質ゼロ円となっている。
競合する米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」を搭載した最新のスマホとも比べてみよう。ドコモの「ツートップ」のひとつ、ソニーモバイルコミュニケーションズの「エクスペリアA」は2年契約することで、端末価格の月額基本料金3255円から3045円が毎月引かれるものの、残額を計算すると5000円ほどの支払いが残る。今度は、他キャリアとの競争もあり、端末代も割安なiPhoneにする可能性が強い。
2013年8月のドコモの契約者数は6184万人で、そのうちガラケー利用者が半数近くの2964万人に上る。なかには、これまでのアンドロイドのスマホの料金プランが高いと感じて、機種変更にちゅうちょしてきた人もいるだろう。だが5cなら、こうした潜在的な乗り換え希望者に訴求できる。
ただし、「5」より高機能化した5sも同時に発表されている。木暮氏は「5sは2年契約でも多少は端末代を徴収し、5cに『実質ゼロ円プラン』を適用するのでは」と予測する。
3社横並びでiPhoneを手掛けることになったが、ドコモの場合、既存顧客がガラケーから5cに乗り換えてくれるだけでも収入アップに大きく貢献する。
「LTE対応の影響で、利用者が支払う通信料金はジワジワ上がっています。もちろんガラケーの通信料よりも高い。ドコモにとっては、5cは魅力的な端末と言えるでしょう」