羽田空港の国際線の昼間の発着枠が2014年春から倍増し、利用者にとっては選択肢が大きく広がりそうだ。航空会社から見れば、羽田の枠は「ドル箱」。
その割り当てをめぐる攻防が山場を迎えている。
13年国内線夏ダイヤの配分ではANAが「完勝」だった
今は羽田の欧米路線は早朝・深夜の発着に限られており、年間3万回ある昼間の発着枠も、韓国や香港といった周辺地域向けだ。昼間の路線枠が14年3月から6万回に倍増する予定で、1日あたり40枠が増える。現時点では英国やフランス、インドネシアなど8か国と交渉がまとまっており、昼間にロンドンやパリに向けて出発できることになる。
40枠のうち20枠が外国航空会社に配分される見通しで、残りの20枠を日本航空(JAL)と全日空(ANA)で分け合う。1枠あたり年に100億円の売上高をもたらすとみられている上、D滑走路建設にともなう新規発着枠の配分は今回が最後だということもあって、争奪戦が本格化している。
割り当ては国交省が9月末~10月にも決定するとみられるが、公的支援を通じてJALがスピード再上場を果たしたことについて「競争環境のゆがみ」を指摘するANAは、発着枠を多めに配分することで、これを是正すべきだと主張している。
実際、13年夏ダイヤから増えた国内線の枠では、ANAが「完勝」している。ANAは「経営破たんした事業者は枠の配分を受ける資格がない」と主張し、国交省はこの主張を色濃く反映した原案を有識者会議に提出。有識者会議の委員からは異論が相次いだものの、結局は国交省が押し切る形でJAL3枠に対してANAには8枠が配分された。
ANA側は今回の国際線の枠についても攻勢を強めており、ANAホールディングス(ANA HD)の伊東信一郎社長は8月8日の定例会見で、
「できればすべて欲しい」
と、全20枠を要求している。
JALは「消費者利便向上」根拠に均等配分要求
一方のJALは、
「従来通り、消費者利便向上のため均等に配分されるのが妥当と考えています」(広報部)
と「消費者利便向上」を根拠に10枠程度の配分を求めている。
羽田空港国際化の恩恵のひとつが、国内線と国際線のスムーズな乗り継ぎだ。具体的には「地方空港→羽田→海外」と、地方在住者にとって海外へのアクセスが向上していることが大きい。国内線にはJALかANAのどちらか1社しか就航していない路線も多く、仮にANAが今回の増枠分を独占した場合、地方からのJALの乗客にとっては(1)羽田でチェックインをやり直す必要があり、荷物の扱いが不便(2)国際線と国内線のチケットを別々に買う必要があり、いわば「初乗り」運賃を2社に払うことになるので割高になる、といった事態も予想される。JALが主張する「消費者利便」というのは、こういった点を指しているようだ。
現時点で8か国との交渉がまとまっているが、40枠のうち利用が決まっているのは27枠のみ。多数の割り当てが予定されている米国路線の交渉が難航しているためだ。これは、JALがアメリカン航空、ANAがユナイテッド航空とそれぞれ提携しているのに対して、日本で提携航空会社を持たないデルタ航空が単独で25枠を要求しており、米国内で調整に手間取っていることが背景にある。
そうは言っても、14年3月末に始まる「2014年夏ダイヤ」は、世界航空運送協会(IATA)で10月中旬にも調整が始まる。それまでに世界中の航空会社は路線計画をIATAに連絡する必要があり、残された時間は少ない。にもかかわらず、国土交通省は枠の配分方針やスケジュールについては「まだ決まっていない」と話している。
JALは国内線枠での経験からか、IATAが調整を始める直前になって、国交省がANAに有利な配分をするのではないかという警戒感を強めているようだ。