次世代のスマートフォン(スマホ)とも言える腕時計型端末、通称「スマートウォッチ」の市場に、韓国サムスン電子が名乗りを上げた。独ベルリンで開催されるデジタル製品の見本市で、新製品を公開したのだ。
スマートウォッチは、米アップルも開発中とうわさされている。スマホ市場「トップ2」の一角が、まずは先手を打った格好だ。
ポケットからスマホ取り出す煩わしさなしで使える
サムスンが開発した「ギャラクシー・ギア」は2013年9月3日、ベルリンで6日に開幕するデジタル見本市「IFA」に先立ち発表された。腕時計のように身に着けて通話やメールをし、アプリを使う。音声アシスタント機能が搭載されており、文字を入力する代わりに機器に話しかけてアラームをセットしたり、予定表を新たに作成したりできる。各種アプリは、無料通話・メッセージアプリ「LINE」などが加わった。写真や動画の撮影も楽しめる。
ただし「ギア」を使うには、同日発表されたスマホの新端末「ギャラクシー・ノート3」と連動させなければならず、単体では機能しない。通話の場合、「ノート3」の電話番号にかかってきたら「ギア」が代わりに持ち主に知らせてくれ、スマホを介さず電話を受けられる。メールなら、スマホが受信したと通知するのが「ギア」の役目だ。「LINE」を使うときは、「ギア」向けに作られた仕様のアプリで、「スタンプ」と呼ばれるイラストの送信や、無料音声通話の着信とメッセージを受信が分かるようになるが、「ギア」からの発信はできない。
スマホより機能は制限されるが、メリットもある。電話機のように握る必要がないので、両手がふさがっていても使える。例えば料理の最中で手が離せない、あるいは右手でかばんを持ち左手で傘を差して歩いているときでも、ポケットからスマホを出す煩わしさなしで操作できる。
スマートウォッチの優位性は、この点だろう。スマホの普及と高性能化で、メーカー間では新製品投入の際に「ハイスペック合戦」となっている感がある。ただ、消費者のニーズに必ずしも合った機能が追加されているとは限らない。「『ギア』では、ユーザーがスマホを使える場面を増やし、より快適かつ便利に利用できるようにする目的があります」と、サムスン電子ジャパンの広報担当者はJ-CASTニュースの電話取材にこたえた。
「曲がるディスプレー」使用せず
サムスンは「ギャラクシー・ギア」の発売を、2013年9月25日以降と発表している。日本では、年末商戦向けにスマホの新モデルが発表される10月が有力だ。
他社の動きはどうか。ソニーは「スマートウォッチMN2」を国内外で発売済みだ。同社のスマホ「エクスペリア」とのセット使用が前提で、通話に加えてツイッターやフェイスブックの内容表示、ショートメールの受信と、機能面では「ギア」と似ている。米クアルコムはサムスンと同タイミングでスマートウォッチ市場に参入した。グーグルの基本ソフト「アンドロイド」搭載スマホと連動させて使う。
ほかにも数社が既に製品を開発しており、サムスンが「1番乗り」というわけではない。ただサムスンの場合、自社ブランドのスマホではシェアで圧倒する。新発売の「ノート3」だけでなく、主力モデルの「ギャラクシーS4」やタブレット型端末と今後連携するようになれば、利用者も広がりを見せるだろう。
一方で、他社とは違う独創性を望んでいた消費者からは失望もあったようだ。米ウォールストリートジャーナル電子版は9月5日付の記事で、サムスンが開発した「曲がるディスプレー」が「ギア」に使われなかったため、「期待していた人々にはがっかりされるだろう」とした。また、あくまでスマホを補完するデバイスで、複雑な作業はこなせないうえ、スマホとセットでなければ作動しないのも少々ハードルが高そうだ。当初は「ハイテクに通じた新端末に飛びつくタイプのユーザー向けのニッチ商品」と位置付けている。
それでも、スマホ市場での最大のライバルであるアップルの機先を制したのは間違いない。既に「アイウォッチ(iWatch)」の愛称で開発がうわさされているアップルのスマートウォッチは、期待とは裏腹に今のところ近日発表という話は伝わってこない。
スマホやタブレット型PCではアップルが先行して一気に市場を開き、サムスンが追い上げた。スマートウォッチではサムスンがアップルより早く製品を投入した。「鬼の居ぬ間に」サムスンはユーザーの取り込みに成功できるだろうか。