北朝鮮が、南北融和路線を鮮明にしている。操業停止が続いていた開城工業団地は再開に向けた詰めの協議が進んでおり、長い間膠着状態だった金剛山観光も北朝鮮側が再開を急いでいる。急に動きが目立っているのがスキー場の建設事業で、2018年に韓国・平昌(ピョンチャン)で予定されている冬季五輪の会場に提案するほどの熱の入れようだ。
開城工業団地の再開をめぐっては、13年9月2日に南北共同委員会の初会合が行われ、金剛山観光に関する協議についても、韓国側が10月2日に協議を行うことで提案している。金剛山では、9月25日から30日にかけて離散家族の再会も予定されている。
5月8月には正恩氏が現地指導
スキー場は南東部の江原道・馬息嶺(マシクリョン)地区で建設が進んでおり、敷地面積は数十万平方メートル、コースの総延長は100キロ以上にのぼる。スキー場の建設は正恩氏の肝煎りの国家事業で、年内の完成を目指している。ここ数か月の動きを見ても、5月下旬と8月下旬に正恩氏自らが現地指導に出向き、7月初旬には労働者に贈り物をするほどの気合いの入れようだ。
9月に入って突然浮上したのが、スキー場を五輪会場として活用するというアイディアだ。北朝鮮当局は9月1日、スキー場の建設現場に共同通信など複数のメディアを案内。現地で体育省の元吉友次官が、要請があればスキー場を五輪会場として提供する「用意がある」と述べたという。五輪の南北共同開催にも前向きな考えを示した。
9月2日には、北朝鮮の張雄(チャン・ウン)IOC委員が米国務省の海外向け放送局「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)の電話インタビューに対して同様の考えを示した。ただ、現時点では
「五輪の南北共同開催は、国際オリンピック委員会や国際スキー連盟(FIS)と複雑な議論が必要で、簡単に決定できる問題ではない」
と慎重姿勢だ。
北朝鮮スキー協会、リフトの禁輸措置に怒りの声明
そうは言っても、スキー場の建設にはハードルがある。リフトをスイスなど欧州から輸入して建設する予定だが、リフトは国連制裁で北朝鮮への輸出を禁じている「ぜいたく品」に該当するとして、メーカーが次々に輸出を断っているからだ。
この動きに、北朝鮮のスキー協会は8月24日に異例の声明を出し、
「われわれは、もともと国連の対朝鮮『制裁決議』というものを認めないが、その『決議』自体にも経済建設と人民生活に必要な対象は制裁項目に含めないとしている。スキー場のリフト設備からロケットや核が出るのでもない。もし、一部の国の政府がわが国では一般の住民がスキー場を利用できないと思ったならば、それはわが制度と人民に対する耐えがたい冒とくである」
と強く非難した。
正恩氏は13年8月の視察時には
「今年の冬からスキー乗りにきた人々が海抜1360余メートルのテファ峰の頂点までリフトを利用できるように工事を急がなければならないと述べた」(朝鮮中央通信)
といい、正恩氏にとってリフトはかなりの関心事だ。それだけに禁輸は受け入れられないようで、異例の声明につながった模様だ。
北朝鮮は「ソウルを火の海に」などと威嚇、13年3月には韓米合同軍事演習に反発して一方的に朝鮮戦争の休戦協定破棄を宣言するなど強硬姿勢を強めていたが、13年5月には、人民武力相が対南強硬派の金格植(キム・ギョクシク)氏から張正男(チャン・ジョンナム)氏に交代したことが判明。金氏は12年10月に人民武力相に就任したばかりで、わずか半年で交代したことになる。この人事には南北間の緊張緩和を進める狙いがあるとみられていたが、それが少しずつ裏付けられつつあるようだ。
8月下旬には6か国協議の議長を務める中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表が訪朝するなど、中国を巻き込む形で対話ムードが高まっている。