三菱重工業傘下の三菱航空機(名古屋市)は国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」について、2015年度後半を予定していた航空会社への納入時期を1年以上延期して2017年4~6月にすることを決めた。初飛行も2015年4~6月に1年以上先送りする。今回で3度目の延期となるだけに、三菱航空機の信用問題につながりかねず、今後の受注活動への影響が懸念される。
当初計画からは約4年遅れる
三菱航空機の川井昭陽社長が2013年8月22日に記者会見し、延期を明らかにした。延期の理由は約100万点とされる部品の安全性確保のための仕様について、世界の部品メーカーとの調整が難航したからだ。会見で川井社長は「期待に応えられないことを残念に思う」と陳謝したうえで、「部品の安全性を証明するプロセスの構築に時間がかかり、部品の納入時期に遅れが生じた」と説明した。
航空機の部品調達はグローバル化が進み、MRJも部品の7割が海外メーカーだという。旅客機は高い安全性が求められるため、部品納入が遅れるのは珍しくなく、米ボーイング社の新型旅客機「787」も当初計画から3年以上遅れて納入された。
ただ、三菱航空機が2008年に公表した計画で当初の納入時期は2013年だったのが、2009年に「2014年1~3月納入」に延期され、2012年には「2015年度後半納入」に再延期された経緯がある。今回の延期で当初計画からは約4年遅れることになった。
三菱航空機では航空機開発に豊富な経験を持つ海外の技術者を採用するなど体制を強化したとし、川井社長は「これ以上遅れることはない」と強調した。さらに「受注している航空各社から失望したとの声もあったが、サポートするというメッセージを受けている」と述べ、現時点では受注への影響もないと説明した。
政府が開発費の3分の1弱を補助する国家プロジェクト
MRJは「YS11」以来約50年ぶりの国産旅客機開発で、政府が約1500億円の開発費の3分の1弱を補助する国家プロジェクトでもある。米プラット&ホイットニー(P&W)が開発した最新エンジンを採用し、ライバル機より燃費性能を約2割高くしたのがセールスポイント。全日本空輸(ANA)と米航空会社2社から計325機を受注している。しかし、度重なる延期で契約が解除されたり、違約金を請求されたりする可能性もあり、川井社長も「懸念の心配は当然出てくると思う」と否定はしなかった。
小型ジェット機は新興国を中心とする需要の高まりで、今後20年間で5000機以上の需要が見込まれている。三菱航空機は採算ラインの500機に向け、さらなる受注を目指している。だが、世界の小型ジェット機市場はカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルの寡占状態で、最近はロシアや中国のメーカーも台頭し、激しい販売競争が続いている。業界では「MRJは実機がないだけに営業活動は厳しいだろう」(航空関係者)との懸念も出ている。
一方、MRJの強みである燃費性能の高さについても、エンブラエルは2018年前半投入の次期モデルにP&Wの同タイプのエンジンを搭載する予定だ。三菱航空機は「MRJの方が性能的には上」(川井社長)と強調するが、今回の延期で納入時期の差は1年程度に縮まり、それだけMRJの優位性は低下していただけに、今後の受注活動は厳しくなりそうだ。