医療現場で起きた予期せぬ死亡事故の原因究明を担当する医療事故調査制度が早ければ2015年度にもできることになっているが、関係者・当事者7人が率直に意見を交換するシンポジウムが2013年8月24日、東京で開かれた。5つの被害者・市民団体が加盟する「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」 (永井裕之代表) が主催した。
原因究明と再発防止が主眼
厚生労働省の大坪寛子・医療安全推進室長が、院内調査+民間の第三者調査機関創設にまとまるまでの経緯を報告した。制度の概略は、予期せぬ事故が起きた場合、病院は第三者機関に届けるとともに、外部委員を含む院内調査をし、遺族に説明する。さらに遺族、病院の求めで第三者機関が調査し、結論を遺族、病院に伝える。大坪さんは、目的は訴訟や処罰ではなく、「原因究明」と「再発防止」であることを強調した。日本医療安全調査機構事務局長の木村壮介・国立国際医療研究センター院長は、7割は死因が明確に、2割以上は推定できたとのモデル事業の状況を、名古屋大学病院安全管理者の長尾能雅教授は院内調査の実態をそれぞれ報告した。
これに対し、被害者側の宮脇正和・医療過誤原告の会会長は、2件の例を挙げ、新制度が本当に有効に働くかとの疑問を投げかけた。息子が虫垂炎手術で死亡、病院は「医療事故ではない」と言い張った事件で、母親らが5年の調査と5年間の裁判で医療事故と認めさせた例と、大腸内視鏡検査で腸に穴が開き、感染症で亡くなった例だ。NHK放送文化研究所の岩本裕氏は医療報道の立場からシステムに対する率直な意見を述べた。
第二部は宮脇さんの問いに対する討論から始まった。虫垂炎の件について、長尾さんは名大病院では安全管理者に報告し、院内調査に入る基準の事故と述べたものの、2つ目の合併症の例は届け出がされない可能性を示唆した。他のシンポジストからは多くの病院では虫垂炎の件でも扱われるか疑問との意見が出た。医療訴訟で著名な鈴木利広弁護士は合併症も院内調査対象にすることや、院内調査と第三者機関の関係を明確に法律で定めることが必要と話した。調査内容が医療訴訟の証拠になることを病院側は不安視しているが、鈴木さんも、樋口範雄・東京大学法学部教授も「使わせない制度は日本では無理」と断言した。
(医療ジャーナリスト・田辺功)