「守備の名手」宮本慎也が引退宣言 直前に「守備範囲が狭い」とのTV放映

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   入場料を払って見たい選手がまたユニホームを脱ぐ。ヤクルトの名手、宮本慎也が2013年8月26日、今シーズン限りでの現役引退を表明。スター不足、名人不足の球界にとって力の抜けるような出来事である。

   百戦錬磨の選手らしく淡々とした引退宣言会見だった。こういう場面にありがちな涙はなかった。話し方は整然としており、いかにも宮本らしかった。

「私は守りから試合に出た選手。それが守りにつけなくなった。引くときかな、と思い決断した」

   ヤクルトに入団したとき、当時の野村克也監督から「宮本は自衛隊やな」と言われた。守りの選手、というわけである。確かに打撃は貧弱だった。パワーがないから前に強い打球が飛ばない。それを克服するのに大変な努力をし、2012年には2000本安打も達成した。絶えず全力でプレーすることでレギュラーの座を維持してきた。だから手抜きプレーには厳しかった。いま本塁打を量産してシーズン55本の記録を抜くのでは、と注目されているバレンティンが投手ゴロで一塁へ走らなかったときは、2日間も口をきかなかったという。どんな主力選手に対しても堂々と態度で示した。

   選手の信頼度は絶対である。PL学園-同志社大-プリンスホテルと野球界の名門を歩んだ。この経験がチームを引っ張る原動力になった。

「エラー王」広島・堂林より下、という評価が前日にTVで…

   宮本の引退は25日の夜に球界を駆け巡った。

   その前日24日の深夜、NHKのBS放送で「ザ・データマン」という番組が放送された(25日15:00に再放送)。その中で野球の守備範囲を元としたデータを取り上げた。UZR(アルティメット・ゾーン・レーティング)という指標で米国でも注目されているものだという。番組では三塁手の守備を取り上げ、宮本と広島の堂林翔太を比較。宮本の守備範囲は堂林より狭く、失策の多い堂林の方が数値が上という意外な結果であった。視聴者は驚いたことだろう。この放映の後に、宮本引退の情報。そして会見で守備を引退理由にしていたから、なんとも言えない感じが残った。

   米国でも日本でも、野球のデータをビジネスにする会社がある。球団と契約して情報提供するわけで、重宝されているらしい。宮本は「昨年限りで辞めようと思っていた」のだが「球団からもう1年」と言われて今季に臨んだ。「今年の夏に監督に引退の意思を伝えた」というから、テレビ番組は絶好のタイミングともいえた。

   大リーグ挑戦の選手が続出してから日本のプロ野球界は、軸になるスター選手が減り、「これぞプロ」といううならせるプレーが消えつつある。UZRという指標では2位に甘んじたが、過去にゴールデングラブ10回を獲得した宮本が「守備の名手」であることは間違いない。入場料に見合う数少ない選手で、こと内野の守りに関しては簡単に後継者は現れまい。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)

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