お盆休みの最中、松山市内のホテルで朝食のバイキングを「食い逃げ」した愛媛大学の40歳の女性准教授のニュースに「なんで、また?」と思った人は多いに違いない。暑さのせい?
いや、事件は高齢者が発症するアルツハイマーとは異なる、若年性認知症の一つが原因ではないかという指摘も出ている。
社会的地位を考えれば食い逃げはあり得ない
准教授は2013年8月16日朝、ホテルに入って朝食のバイキング会場で食事をとり、支払をしないまま立ち去るのを見つかって通報され、建造物侵入の疑いで逮捕された。所持金はなかったという。准教授は広島在住だが、ホテルに宿泊しておらず、朝食券を持たないまま朝食会場に入ったため従業員が注意して見守っていた。
准教授の社会的地位や年齢を考えれば、食い逃げや建造物侵入という行為はふつうにはあり得ないことだろう。そこでクローズアップされているのが、若年性認知症の「ピック病」だ。働き盛りの40~50代が発症のピークとされ、感情や思考などの精神作用を支配する前頭葉が萎縮するため感情の抑制がなくなり犯罪や反社会的な行為を行ってしまうようになる。
2008年11月に当時52歳のテレビ局の有名プロデューサーが都内の衣料品店で万引きし書類送検されたケースもピック病が原因である可能性が指摘されており、繰り返してしばしば報道される公務員の犯罪の一部も、この認知症が疑われている。
アルツハイマーに比べて知られていない
ピック病は、同じ大脳委縮性疾患のアルツハイマー病と比べて平均発症年齢が若い。アルツハイマーが記憶力低下などの知的機能が衰えるのに対し、ピック病は、特に初期では記憶力や計算の能力は保持する一方で自制力が低下し、感情の荒廃性が著しくなるという。専門家によれば、一日のうちでこうした状態になるのはごく短時間だったりするため、見つけにくく、自覚されないことも多いようだ。アルツハイマーに比べて知られておらず、診断できる医師も多くはなく、介護以外の有効な対処法がないのが現状だ。
ピック病は、チェコの精神医学者アーノルド・ピックが1892年に最初の症例を報告したことから名づけられた。120年以上も前から存在がわかっている病気で、働き盛り世代が失職したり社会的地位を失ったりするのをこのまま見過ごせないとして、厚生労働省は数年前から実態調査に乗り出している。