日本郵政と国内がん保険最大手のアメリカンファミリー生命保険(アフラック)が、業務提携を大幅に拡大することで合意した。日本郵政は現在も約1000の郵便局でアフラックのがん保険を販売しているが、2万局に及ぶ全国のすべての直営郵便局(運営を委託する約4000局の簡易局を除く)でがん保険を売る。
アフラックは国が100%株主の日本郵政傘下のかんぽ生命保険の事業拡大に対し「民業圧迫」と批判してきたが、手の平を返すように2万局の「圧迫装置」に乗っかる形。「図らずもアフラックのご都合主義を露呈した」と見る向きもある。
「今回の話は遺憾だ」日本生命保険が異例のコメント
「儲けるためなら何やってもいいのか。今回の提携拡大が日本の保険市場に与える影響は計り知れない」。大手生保幹部は吐き捨てるように言った。
なかでも怒りが収まらないのは日本生命保険だろう。提携拡大が発表された7月26日には「かんぽ生命とは5年以上、さまざまな面で協力してきた経緯があり、今回の話は遺憾だ」とする異例のコメントを発表した。
何しろ、2008年にかんぽ生命と提携し、がん保険の共同開発などを検討してきた間柄だ。かんぽ生命は、表向きは今後も提携関係は維持するとしているが、アフラックとは新商品の共同開発にも踏み込む方針でもあり、日生とかんぽ生命がこれから何かを始めると考える業界関係者は皆無だ。
日本郵政の西室泰三社長の「(日生と)けんか別れしたわけではない」との記者会見での発言も虚しく響くばかりだ。がん保険の保有件数でなお国内7割のシェアを持つ強敵アフラックの販売拡大に、日生の代理店数より一桁多い日本郵政が加担するとなれば、日生の落胆も想像に難くない。
TPP交渉参加の日米の政府間協議が影響?
もちろん、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加の事実上の前提となった日米の政府間協議が影響した、と業界では見られている。2013年4月に決着した日米TPP事前協議では、保険の公平な競争性を保つための透明性確保で合意した。具体的には、国が唯一の株主である日本郵政傘下のかんぽ生命の新規業務凍結を意味する。
その合意の後、急展開したのが、アフラックと日本郵政の提携拡大協議だったわけだ。「政府は日本の保険市場を差し出すことでTPPの切符を得たというのか」との恨み節が生保業界に聞かれる所以だ。
一方、日本郵政の関係者からは「日本郵政が上場を目指して企業価値を高めるなら、いつまでも日生にこだわらずにアフラックの商品を売る方がいい」との主張が聞かれる。かんぽ生命は民営化以降もジリ貧。それでいて新規業務の手足も縛られるとなれば、ひとまずアフラック商品を売って手数料ビジネスで稼ぐのも一計というわけだ。
がん保険でシェア7割とはいえ、国内勢に押されシェアが低下基調のアフラックにとっても渡りに船だ。かんぽ生命を批判した過去など忘れたも同然だ。しかしそのことで、日本で利益の8割を稼ぐアフラックに対する業界の目線は厳しさを増している。