故ジョン・レノンさんを、遺された「歯」を元にクローン技術で現代に蘇らせる――そんなトンデモ計画が、カナダで進行している。エイプリルフールのような話だが、「首謀者」のマイケル・ズック氏は大真面目だ。
「もしマンモスでクローンが作れるなら、人間でも同じことができるはずでしょう? ああ、あのジョン・レノンのDNAを復元することができるなんて――」
300万円で買った歯からDNA採取に挑戦
カナダで歯科医を営むズック氏が、ジョンさんの奥歯を手に入れたのは2011年のことだ。
これはビートルズがまさに人気絶頂だった1960年代半ばごろ、ジョンさんが虫歯治療のために抜いたものだという。ジョンさんはこの歯を、当時家政婦として働いていた女性に渡した。
「これ、適当に捨てておいて。ああ、そういえば娘さんが僕らのファンなんだっけ? 彼女にあげてもいいよ」
というわけで、この「穴の開いた、黄ばんだ奥歯」は女性の家に渡った。そして11年に家族が手放した際、上述のズック氏が約3万1000ドル(約300万円)で買い取ったわけだ。
その後ズック氏は、奥歯を見世物にイギリス各地をめぐる「全国ツアー」やアート作品などに従事してきたが、とうとう「クローン計画」を思い立った。ズック氏は「ジョン・レノンの歯.com」なるサイトでプロジェクトの開始を宣言、すでに歯のエナメル質をDNA採取のため、クローンに詳しい米国の研究チームに送ったことを明らかにした。
ポールも作ってビートルズ再結成?
小説「ブラジルから来た少年」を地で行くようなこの話題に、世界各国のメディアが飛びついた。英「ザ・サン」がビートルズの名盤にひっかけて、
「サージェント・ペパーズ・『クローンリー』・ハーツ・クラブ・バンド」
なんて見出しを打ったのを始め、やはり英「ガーディアン」も「想像してごらん(イマジン)、カナダの歯医者がジョン・レノンのクローンを作ろうとしているところを」と報じるなど一種の笑い話的な扱いがほとんどだが、米「マッシャブル」のように、
「たとえクローンを作ったところで、歩む人生が違うのだから『ジョン・レノン』は作れやしない――それとも、ポール・マッカートニーのクローンも作ってジョンの人生を再現させるつもりか」
と強く批判するところもある。
実はジョンの歯じゃないかも…
クローン技術の誕生以来、「クローン人間」の是非は常に議論の対象になってきた。特に今回のような有名人や歴史上の偉人のクローンが作られることの危険性はたびたび指摘されている。また技術的にも、現時点ではクローン人間を誕生させることは難しいとの見方が強い。
また問題の歯は保存状態があまりよくないこともあり、必要なDNAが採取できるかどうかは未知数だ。実は11年の競売の際にもDNA鑑定が検討されたが、上記の理由で見送られている。「本物」かどうか、実ははっきり確認ができていないのだ。
ジョンさんといえばビートルズ時代、「僕らはキリストより有名だ」と話して物議をかもしたが、まさかそのキリストばりに「復活」させられようとは、果たして想像していただろうか……。