あっさりと記録を作ったところはさすがにイチローである。日米通算4000安打は2013年8月21日、地元ヤンキースタジアムで行われたブルージェイズ戦で達成。注目されるのは今後で、来年はどの球団でプレーするのかなど、オフは騒がしくなるだろう。
「リーチ」で臨んだ試合、「一発」で決めた
記念の安打は、1回裏の第1打席で出た。左前にいつものスタイルで打ち返した。
「早い段階でヒットを打ちたいと思っていたので、一番喜んでもらえるのは第1打席なのでよかった」
イチローの感想である。祝福の言葉が相次いだ。
長嶋茂雄氏は「気の遠くなるような数字」と言い、王貞治氏も「素晴らしい」
日本球界最多の3085安打を放った張本勲氏も称えた。「これだけの安打を打てたのは、精神力、技術、自己管理ができていたからだ」と。
前日、2安打を放ち、あと1本で試合に臨んだ。緊張するところだが、そんな周囲の心配をよそに、いとも簡単にやってのけた。
一塁に到達すると、ヤンキースの選手が総出で駆け寄った。試合は中断し、イチローは帽子を取り、坊主頭で大騒ぎのスタンドに頭を下げた。
「試合が止まるほどの選手、ということだよ、彼は」
同僚たちの言葉だ。最高の賛辞といっていいだろう。その中に大喜びのエース黒田博樹もいた。
高齢化ヤンキースのリストラ候補?
名門ヤンキースで達成したことは何よりの記念だろう。ただ名門ゆえにチーム作りの厳しさは半端ではない。実は、今のヤンキースは主力の高齢化が顕著で、それが成績に表れている。
「ヤンキースは来年の若返りに向けて大ナタを振るうはずだ」
現地のマスメディアではそういう見方が圧倒的である。つまりベテランを切る、ということだ。
イチローは現在39歳。高齢選手のリストに入っている。来シーズンも同じ場所でプレーできるかどうか分からない。なにしろヤンキースは、ワールドシリーズMVPの松井秀喜を放出した球団だ。
日本の感覚では、まだ走攻守に優れたイチローを切ることなど考えられない。しかし、メジャーでは何が起こるか予測できない。ヤンキースはホームランを打てる外野手を欲しがっている。
それはともかく、日本では国民栄誉賞の話が再燃するだろう。安倍晋三首相は「とんでもない数字」と絶賛している。授与の可能性は大きい。一度断っているイチローがどう出るか。このオフ、日米で記録男から目が離せない。(一部敬称略:スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)