ニューヨーク・タイムズ、ウイキリークスから距離を置く
その極端な例がイラク戦争だ。エンベッド(埋め込み)従軍による報道ー大メディアの記者が兵士と肩を並べて前線に派遣され自由にレポートを許されたー。これは、巧みな報道管制でもあった。米軍兵士の視点から戦場をレポートすることであり、意識しなくても愛国的なトーンになるだろう。戦争という現実を敵味方の両サイドから捉えようとする客観性をモットーにするジャーナリズムとはかけ離れたものだった。
このような時代風潮の中で、前述したように、ニューヨーク・タイムズが盗聴がらみの特ダネを棚上げにするという常識では考えられない出来事が起き、メディアへの信頼にヒビが入った。その後、大量の機密文書や画像がウイキリークスに流出し、ニューヨーク・タイムズなどの欧米有力紙も協力して特ダネを掲載したが、オバマ政権が内部告発の取締り強化の姿勢を示すと、とたんに弱腰になり、ウイキリークスから距離を置き始めた。スノーデンが弱腰のニューヨーク・タイムズに一瞥もしなかったのは当然であろう。
このように、メディアの衰退は戦時下の米国が内側から病み始めていることの兆候ではないだろうか。スノーデン事件はその警鐘である。
在米ジャーナリスト 石川 幸憲