王貞治「本塁打55本」の大きすぎる壁 外国人選手は「神の記録」超えられない?

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「ベーブ・ルース超え」本塁打に祝福なし

   スポーツジャーナリストの菅谷齊氏は、「王氏自身が何か指示したとの話は一切ありません」と明言する。野球人であれば誰でも記録を目指すものであり、自己記録を何が何でも守ろうとのこだわりは、王氏にはないと考える。ただ、王氏が監督を務めていた巨人や福岡ダイエーのコーチや選手は、相手に記録を破らせてはならないと「言わば『場の雰囲気』をよんで四球攻めを選択したのでしょう」。

   ローズ選手やカブレラ選手の場合、福岡ダイエー以外の対戦もあり、そこでは敬遠続きだったわけではない。ファンはふたりを後押しし、四球になるたびスタンドからは罵声が飛んだという。それでも記録達成がならなかったのは、「世界の王」を超えようとする自分にさまざまなプレッシャーが降りかかってきたのだろう。

   「55本塁打」は、言わば日本球界にとって「神の記録」と位置付けられていると菅谷氏。実はかつて米大リーグにも同様のケースがあった。ベーブ・ルースが長年保持し続けていた年間60本塁打の記録を、1961年にニューヨーク・ヤンキースのロジャー・マリスが抜く。ルースは大リーグの象徴的プレーヤー。ヤンキース生え抜きでなく今ひとつスター性に欠けるマリスが超えるのは、球界もファンも許さない風潮が高まった。本拠地で本塁打を放ってもブーイングが飛ぶ始末で、果ては祝福ムードのない新記録樹立となってしまった。それほどルースの存在は大きく、「侵さざるべき記録」だったのだろう。

   仮にバレンティン選手が王氏の記録を抜く可能性が近づいたら、周囲はどのような雰囲気に変わるだろうか。

   ただ2001、2002年当時と違うのは、「今は王氏がユニホームを脱いで、現場から離れている」点だ。グラウンドにその姿がないので、若い選手は記録の「呪縛」を感じないかもしれない。とは言え球界全体としては、若手がむやみにバレンティン選手に勝負を挑んで、日本野球の「宝」である王氏の記録が塗り替えられては一大事、と考えていても不思議ではないと菅谷氏は指摘する。この雰囲気がまん延したとしたら、対戦チームとしては容易に「56本目」を打たせる機会を与えるわけにはいかないのではないか、と少々大胆に推測した。

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