北欧デンマークの小都市の市議が、中国人に向けてフェイスブック上に敵意むき出しの書き込みをして問題視されている。「中国人は全員焼け死ねばいい」という内容だったから、穏やかではない。
どうやらこの市議、大勢の中国人がひとりの少数民族の子どもを取り囲んで殴る動画を見て、怒りにまかせて行動に移したようだ。
「目の前に中国人がいたら撃つだろう」
問題発言の主は「ハムレット」の舞台となった街、ヘルシンゲルで市議を務めるフアト・ヤラン氏。中道左派政権の中心、社会民主党に所属する。現地紙「コペンハーゲン・ポスト」電子版2013年8月5日の報道によると、同氏はフェイスブックにこう書き込んだという。
「中国で気温が140度まで上昇してすべての中国人が焼け死ねば、世界は中国人どもから解放されるだろう」
ちょうど中国が熱波に襲われ、熱中症による犠牲者が続出した時期の投稿だ。過激な言動はこれにとどまらない。現地時間8月2日には地元メディアの取材に応じ、「今、目の前に中国人がいたら(銃で)撃つだろうね。党から放り出され、国を追われても構わない。自分の言葉には責任を持つ」と話したという。
ここまで中国にあからさまな嫌悪感を示した背景には、ある動画の存在があった。何人もの中国人がひとりの男の子を虐待する内容だったという。詳細は記事に書かれていないが、あまりのひどさに激怒し、暴言につながったのだ。
ただその後、ヤラン氏はトーンダウンする。まず怒りの矛先は「映像の中で子どもを殴っていた中国人のみ」と軌道修正。地元メディアが掲載した発言内容については、「確かに記者に対してそう言ったが、あれは虐待映像を見た直後だったので感情的になっていた」と弁解した。
しかし、市議という立場で外国人に対して「死ねばいい」との書き込みはどう考えてもアウトだ。在コペンハーゲンの中国大使館は、「特定のデンマークの政治家による不適切な発言に深い衝撃を受けており、強く抗議する」と声明を発表。ヤラン氏が所属する社会民主党の広報は、「発言内容は党の見解とは異なる」と強調し、同氏に対しては責任をとって離党するように促した。
ヤラン氏はこれを受けて「愚かな振る舞いだった。傷つけたすべての人々に謝罪します」とコメント。それでも自主的な離党や辞職の考えはないようだ。
少年の顔面や頭部を蹴りつけ、指を踏みつける
香港紙「サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)」電子版の8月12日付記事では、映像で虐待を受けている少年は「ウイグル族と推測される」としている。ヤラン氏が実際に見た映像かどうかは不明だが、インターネット上では、ウイグル人少年をおとなたちが集団で殴る動画が見つかった。
ウイグル人の女性人権活動家で世界的に知られ、2012年に来日したラビア・カーディル氏が、その内容を解説していた。映っている少年は6、7歳のウイグル人で、髪の毛が茶色く西洋人のような風貌なので、中国人の見た目とは明らかに違う。カーディル氏によると、30人の中国人が少年を囲み、中には子を持つ母親もいたそうだ。男たちは、座り込む少年の顔面や頭部を蹴りつけ、手を引っ張って指を踏みつける。少年は泣き叫ぶが、誰も救いの手を差し伸べようとはしない。それどころか少年を威嚇したり、笑ったりしている人もいる。
なぜこうなったのか、いきさつは分からない。少年に落ち度があったのかもしれないが、抵抗できない子どもにおとなが「集団リンチ」よろしく暴行を続け、周りが誰も助けないのは正気の沙汰とは思えない。
SCMPによると、中国のソーシャルメディアではヤラン氏の発言に「もうデンマークに旅行しない」との反発がある一方、「多くの国が中国を嫌っているようだが、なぜなのか」と戸惑う声も上がったと紹介。またコペンハーゲン・ポストに寄せられた読者コメントを見ると、「ヤラン氏は人種差別主義者だ」「発言は非常に危険な兆候」との批判だけでなく、香港出身の中国人を名乗る人物は、「中国政府は金で雇った集団を(香港に)送りこんで反対派を抑えつけ、中国本土から来るやつらはトラブルばかり起こす。野蛮でごう慢、暴力的だ」と露骨に中国を批判していた。