業績低迷からの脱却を目指すマクドナルド。原田泳幸会長兼社長が陣頭指揮をとり、低価格帯メニューの見直しや「1000円バーガー」のような話題商品を投入してテコ入れを図ったが、直近の決算は冴えない結果となった。
2013年通期の業績も減収減益の見通しだ。原田社長は会見で、不振の一因はメディアの報じ方にあるとにおわせる発言をした。
低価格帯メニュー拡充、2か月連続で売上高増
原田社長の「恨み節」が掲載されたのは、2013年8月10日付の東洋経済オンライン。マクドナルドは4月18日、いわゆる「100円マック」の見直しを発表。主力商品の「ハンバーガー」や「マックシェイクSサイズ」を120円に値上げするとした。一方で、190~230円で販売されていた「マックフライポテトSサイズ」は150円と値下げに踏み切った。100~200円の価格帯商品の充実を図るねらいだが、報道では100円マックの消滅に比重が置かれたのだという。
そこで、「バリューピックス(低価格メニューの拡充策)を開始したにもかかわらず、お得感が下がることはありえない。申し上げにくいことだが、メディアが"100円マックは消えた"と報道したせいではないか」との発言が飛び出したようだ。
確かにこの発表後の主要各紙は、100円商品の値上げにクローズアップしている。見出しを見ると、「マクドナルド、ハンバーガー100円から20円値上げ」(4月18日付日本経済新聞電子版)、「減る100円マック 値上げ、セットに誘導」(4月19日付朝日新聞朝刊)、「マクドナルド値上げ 脱『100円』吉か凶か」(4月19日付読売新聞朝刊)といった具合だ。それまでマクドナルドの業績アップの原動力となってきた100円マックの終了という方向転換だけに、注目したのは無理もないだろう。
実はその後、売上高が一時回復する。料金改定が反映された2013年5月の全店売上高は前年同月比2.1%増と2012年8月以来のプラスで、翌6月も同2.6%増となった。苦戦していた既存店の売上高も同じ時期に2か月連続で増加している。ただし7月になると、全店売上高は同0.8%減、既存店売上高も同2.7%減と「逆戻り」してしまった。
それでも5、6月と好調だったのは客単価のアップが貢献したためで、一部値上げが奏功したと考えられよう。日本フードサービス協会の2013年6月の市場動向調査結果を見ても、「洋風」のファストフードは売上高、客単価ともに前年同月比増。こうなると、「100円マック終了報道」が業績回復を妨げたとは言えないのではないだろうか。
客単価は上がったものの客数の伸び悩みを指摘される
マクドナルドは6月24日から、高価格ハンバーガーの発売を開始。7月には3日間限定で1個1000円の高級バーガーを販売した。話題性抜群だっただけでなく消費者にも好評で、6月24~30日の既存店売上高を前年同期比10%以上押し上げた(7月3日付日本経済新聞朝刊)という。新規顧客を開拓するという原田社長の思惑通りに動きだしたようにみえた。
だが実際はいまひとつ力強さを欠き、8月9日の決算発表では期初計画を下方修正し、2013年通期で減収減益になる見込みを明らかにした。8月10日付の東洋経済オンラインは原因について、客単価は上がったものの客数が伸び悩んでいると指摘。原田社長は7月の売上高減について、「100円マック消滅」との報道により消費者が「お得感」を感じなくなったと嘆く一方、コーヒーや現存する100円メニューの認知を高める投資をすると話したという。
ノーベル経済学者のダニエル・カーネマン氏が提唱した「プロスペクト理論」によると、消費者は、100円だと思っていた商品が実際は120円で「損をした」という感覚と、逆に120円だと思っていた商品が100円で売られていて「得をした」との感覚を比べた場合、同じ金額でも「損をした」というショックの方が大きく残るそうだ。マクドナルドの料金改定も、一部商品は価格が下がったが「ハンバーガー」「チーズバーガー」が値上がりしており、この事実だけで十分消費者心理にダメージとなっていたのかもしれない。