宮崎駿監督最新作「風立ちぬ」に、意外なところから逆風が吹いている。韓国だ。公開直後からくすぶっている「右翼映画」批判がなかなか止まず、一部からは公開取り止め説まで流れている。
「風立ちぬ」は、ゼロ戦の開発主任として知られる技術者・堀越二郎を主人公としたアニメ映画だ。2013年7月20日の日本公開以来、興行収入は3週連続トップ、累計では早くも40億円を突破した。興行収入150億を突破した前作「崖の上のポニョ」(2008年)に迫る今年最大級のヒット作になりそうだ。
「日本が戦争を起こした」に変更求める
「風立ちぬ」、韓国上映は果たしてどうなるのか?
(C)2013 二馬力・GNDHDDTK
ところが、韓国ネットなどでは日本公開の前後から、第二次世界大戦当時の戦闘機開発が描かれていることを理由に「この映画は『日帝時代』を賛美している」との思わぬ批判が出始めた。批判は宮崎監督の「歴史認識」にも及び、たとえば予告編などで、
「かつて、日本で戦争があった」
としていることに対し、韓国紙「毎日経済」などが「日本が戦争を起こした、に変えねばならない」と主張するのがその典型だ。
宮崎監督は政治的にはリベラルな立場で知られ、「風立ちぬ」公開直前にも、安倍政権が目指す憲法9条改正への反対、また慰安婦への賠償や領土問題への「譲歩」を主張するインタビューがスタジオジブリの小冊子に掲載され、物議をかもした経緯がある。
今回の作品についても宮崎監督は、決して戦争を称揚するのではなく、あくまで技術者としての「夢」を追い続けた主人公・堀越の姿を描きたいと説明している。そんな宮崎監督にとって、韓国からの反応は不本意だったようだ。7月26日にはスタジオジブリに韓国メディアを招き、
「戦争の時代を一生懸命に生きた人が断罪されてもいいのかと疑問を感じた」
「堀越は軍の要求に抵抗して生きた人物だ。あの時代を生きたというだけで罪を負うべきだろうか」
と反論した。
「典型的な日本国民用の自慰的映画だ」
しかし、韓国側からの攻撃はまだ止む様子がない。韓国内では、
「(『風立ちぬ』を公開するのなら)米国の原爆開発者ロバート・オッペンハイマーを主役に、『爆弾裂けぬ』なんてアニメを作って封切りすればいい。それなら見ものだ」
「徹底的に自分たちを被害者として描く、戦争の惨禍は描いてもその原因には言及しない、典型的な日本国民用の自慰的映画だ」
「そもそもゼロ戦を開発した三菱重工業は、朝鮮人を徴用して働かせていた会社ではないか」
などといった批判が相次いでいるという。韓国の通信社「ニューシース」にいたっては、
「韓国国民は、韓国での『風立ちぬ』上映中止を呼びかけるべきではないか」
「映画のテーマだけでも上映を拒否するべき」
という声まであることを紹介している。
今のところ韓国では予定通り9月に封切りが行われる見込みで、映画情報サイトなどでも、公開予定リストの中に「風立ちぬ」の名が確認できる。ただし詳細は発表されておらず、先行きはやや不透明だ。