劇作家の故井上ひさしさんが手がけたNHKの人形劇「ひょっこりひょうたん島」のモデルとされる蓬莱島(ほうらいじま)を、大槌町が近く購入する。「…泣くのはいやだ 笑っちゃおう」。毎日、正午、人形劇の主題歌が流れる大槌町で、島は震災後、町民の心のよりどころになってきた。第三者の手に渡らないように、町は2013年8月8日、町の文化財に指定し、購入への環境を整えた。
蓬莱島は、大槌湾に浮かぶ周囲200メートルほどの小島で、面積は753平方メートル。真中がくびれ、ひょうたんのような形になっている。
島にある灯台は漁船の航行を見守り、島の弁天神社にまつられていた弁財天(弁天さま)には、漁民が漁に出るときに、豊漁と、漁の安全を祈願する守り神になっていた。
島は震災で大きなダメージを受けた。灯台、神社の鳥居、陸と島を結ぶ防波堤が損壊し、弁天さまも傷ついた。震災から2年5か月を経過した現在、島復興の動きが本格化している。防波堤の建設が、この秋の完成に向けて急ピッチで進んでいる。長さ338.2メートルの防波堤ができれば、震災前のように、徒歩で島に渡ることができる。灯台はデザインを公募し、2012年12月に再建された。
弁天さまも修復に出されている。弁天さまは高さ50センチほど。8本の腕に矛や弓、刀などを持つ「8臂(はっぴ)像」。顔は傷つき、衣服は破れてしまったけれど、入っていたお堂とともに、奇跡的に流失を免れた。由緒は定かではなく、地元には、近くの浜に流れ着いた弁天さまをまつったという言い伝えが残っている。
島の所有者は大槌町漁業協同組合(旧漁協)だった。しかし漁協は、震災の影響で破たんし、島は、現在、破産管財人の手に渡っている。碇川豊町長は「島は町の復興のシンボル」として町の文化財に指定し、指定した後に町が購入する構想を温めてきた。島がある地元の赤浜地区でも、町に購入を働きかけ、8月8日の町教育員会臨時会で町文化財の指定を決めた。これから、町と破産管財人との間で、価格交渉が行われる。
震災前、小さな小島にすぎなかった蓬莱島は、震災後、大槌町のシンボルになり、全国に知られるようになった。同時に、「ひょうたん島」の主題歌のメッセージは、町民の心に響き、一丸となって復興に向き合う勇気を与えている。(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
(7) << (8)