米国と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉がはじまった。米欧の国内総生産(GDP)は世界のほぼ半分を占めている。協定締結が実現して基準統一などが進めば、世界の貿易全体、また日本が関わる通商協定の協議にも大きく影響しそうだ。
一方、いよいよ日本も、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉が本格化する。日本が米欧FTA交渉が気になるように、EUもTPP交渉のゆくえに注目している。
米欧、合意には厳しい交渉が必要になるとの見方
EUはもともと、米国とのFTA交渉には慎重だった。だが、日本がTPP交渉に参加することが決まるなど、「TPP交渉が進展すればEUが蚊帳の外におかれる」との危機感を抱き、米国との交渉入りを決めた。
米欧FTAの対象は関税撤廃をはじめ、工業製品などの規格統一や知的財産権の保護など幅広く、2014年末までに「高い水準」の合意を目指す方針だ。
その第1回目の交渉が2013年7月8日~12日まで、ワシントンで行われた。米欧、双方の代表者は、幸先の良いスタートが切れたが、目標とする2014年末までの合意には厳しい交渉が必要になるとの見方を示した。
実際、農業問題をはじめとして、米欧が妥結に至るまでのハードルは高いとされる。特に、米国が求めている遺伝子組み換え作物などの規制緩和に対して、EU側は強く反発している。映画や音楽ソフトの分野でも、ハリウッドの攻勢を懸念するフランスを中心とする慎重なグループの動向が壁になりそうだ。
さらに、交渉開始直前に判明した米国家安全保障局(NSA)による盗聴問題で、交渉入りを拒むべきだとの声さえ上がっており、交渉の行方に影を落としている。
日本にとって、米欧FTA交渉の開始は、米国が参加するTPP交渉に加え、4月から始まっているEUとの経済連携協定(EPA)の交渉にも響きそうだ。
EUは日本向けに自動車輸出を増やしたい
米国がTPP交渉を主導し、EUがTPPに推される形で米欧FTAの協議入りに踏み切ったように、米国、EUともに最大の関心を払っているのはアジア太平洋地域だ。
この地域はいまや、世界経済をけん引する勢いで急成長を遂げている。米欧は当然、この地域を念頭に置きながら、自らに利する高いレベルの規制や基準づくりに取り組むことになり、その動向がTPP交渉に多かれ少なかれ響いてくるのは必至だ。
そうした中で、EUが注目するのは自動車分野。交渉の成り行き次第では、この分野で大きな隔たりがある日欧EPA交渉に響いてくるからだ。日本向けに自動車輸出を増やしたいEUは、環境や安全基準などの規制緩和を日本に要求している。日本はこれを拒否しているが、仮に米欧FTA交渉で同様のテーマについて米国が譲歩するようなことになれば、EUが日本に一段と強く譲歩を迫る可能性は高まる。
日本は、「日中韓FTA」交渉や東南アジア諸国連合(ASEAN)のほか、中国などが参加した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)にも加わっており、同時並行で進むさまざま交渉をにらみつつ、戦略的な対応が必要になっている。