2005年12月に発生した「ジェイコム(現ジェイコムホールディングス)」株の大量の誤発注を巡る東京高裁の判決が、2013年7月24日に出された。一審の東京地裁判決(2009年12月)と同様、みずほ証券から「誤発注なので取り消してほしい」と連絡を受けたのに株の売買を停止しなかった東証の過失を認め、一審と同額の107億円の損害賠償の支払いを東証に命じた。みずほ証券は不服として上告する公算が大きいが、兜町では「まだやってるのか」との声も聞かれる。
1分25秒後に取り消そうとしたが
問題が起きたのが7年半も前のことなので、当時の状況を振り返っておこう。
発生は2005年12月8日。この日に東証マザーズに新規上場した、人材派遣サービスなどを手がける「ジェイコム」の株式についてみずほ証券は、顧客から委託された売り注文を誤発注した。正しくは「61万円で1株」なのに、「1円で61万株」と間違えてしまったのだ。
みずほ証券側はミスに気づいて発注から1分25秒後に東証に取り消し注文を出したが、東証のシステム不備で受け付けられなかった。破格の超安値で出された売り注文を鵜の目鷹の目のプレーヤーが見逃すはずもない。東証には1日の値幅を制限する「ストップ安(高)」という制度があるので、実際に1円で売られたわけでないが「ストップ安」水準に張り付くジェイコム株にどんどん買い手が現れ、みるみるうちに売買注文が成立。発行済み株式数の3倍を超える異常事態となっても取引が停止されず、事態を収拾するためみずほ証券は自社の取引でジェイコム株を買い進めるなどし、結果的に400億円を超える損害が出た。責任を問われた東証も、鶴島琢夫社長が辞任に追い込まれた。
みずほ証券が415億円の損害賠償を求めた一審は「東証の担当者が異常な売買に気づいたのに停止させなかった」と東証の過失を認め107億円の支払いを命令。発行済み株式数を超えるような、決済できないことが明らかな売買は停止させる義務がある、とも指摘する一方、誤発注時に端末に出た警告表示を無視したみずほ証券の過失も認め、過失相殺で賠償額を算定した。
類似のトラブルその後ない
東証は一審判決受け入れの意向だったが、納得しないみずほが控訴したため東証も控訴で応じた結果、二審判決は一審をほぼ踏襲した。
東証は既に利息を含めて一審で命じられた賠償金をみずほ証券に支払い済み。トラブルが起きたシステムは更新し、発行済み株式数の3割を超える注文は自動排除する仕組みに改めた。注文取り消しに柔軟に応じる体制も整えた。システムトラブルは時々あるが、ジェイコム株のような問題はその後は起きていない。それだけに東証としては早く訴訟を終わらせたいと願う立場。
だが、みずほ証券は納得していない。二審は一審より賠償金の利息を低くしたため、3億円余りを東証に返さねばならないことなどが影響しているようだ。
兜町では「過去の話を引きずることで東証のイメージダウンにつながる」(大手証券)との声も聞かれる。アベノミクスが呼び戻した投資家をシラケさせない決着が必要かもしれない。