製薬企業社員がデータ操作、慈恵医大が血圧降下剤の論文を撤回へ

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   東京慈恵会医大グループが行った血圧降下剤「ディオバン」 (一般名=バルサルタン) の大規模臨床研究でも人為的なデータ操作があったことが分かった。同大学の調査委員会 (委員長=橋本和弘・医学科長) が2013年 7月30日記者会見し発表した。臨床研究には大阪市立大学非常勤講師の肩書で製薬会社ノバルティスファーマの元社員 (今年 5月に退職) が参加、統計解析を担当した。国際医学誌『ランセット』に発表された論文には、解析データは製薬会社と独立、との偽った記述があり、データ操作も合わせ、内容が信頼できないとして調査委員会は論文の撤回が妥当、と判断した。

研究室に3年間で8400万円の奨学寄付金

   この研究は望月正武教授 (当時=循環器内科) を統括医師とし、慈恵医大付属病院および関連病院の高血圧患者3081人を対象に行われ、ディオバンは脳卒中や狭心症を防ぐ効果が高いとの結論を出し、販売促進に役立った。外部委員を含む調査委員会は関係者からの聞き取りのほか、大学が保有していた671 人のデータを分析、血圧値86件の食い違いを確認した。ディオバンの効果がより鮮明になるように操作されていた。このデータに医師はタッチできなかった。望月教授らは製薬会社の社員とは知っていたが、事務局的なことを積極的にやってくれ、便利でもあり、信頼して任せきりになっていた、という。なお、2005年から 3年間、望月研究室にはノバルティス社から8400万円の奨学寄付金が払われていた。

   ディオバンの臨床試験は京都府立医大など 5大学で行われ、すでに公表された京都府立医大の調査では34件のデータ操作があり、同じ元社員が加わっていたものの、それ以上は不明のままになっている。今回の慈恵医大調査は製薬会社の意向が強く反映していたことを示している。

   望月教授 (現在は客員教授) は会見には出なかったが、おわびの言葉を発表、論文を撤回するとの意思表示をした。

   この事件で、日本の臨床研究の信頼性が大きく損なわれた。厚生労働省は 8月にも大臣直轄の委員会を設置、さらに実態解明と再発防止策を検討する。

(医療ジャーナリスト・田辺功)

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