社説は、読んでいる読者より書いている論説委員のほうが多い?
この試算原文では、若年世代の投票率の低下と国債発行額、若年世代の投票率の低下と社会保障給付の世代間格差のそれぞれに「相関」があると分析して、結論を導き出している。
この統計分析は初歩的な誤りだ。被説明変数(負担)と説明変数(投票率)の両方が別の要因で説明できる「疑似相関」になっている。具体的に言えば、被説明変数(負担)も説明変数(投票率)も、これまでの「傾向」でかなり説明できてしまう。この見えない「傾向」によって、負担と投票率に相関があるように見えているだけだ。それを除去すると何の相関もなくなる。当然、投票率と負担の因果関係もなくなる。
朝日新聞の社説が笑えるのは、「もちろん因果関係を証明するのは難しい」とヘッジしたつもりになっているが、「疑似相関」を知らなかったために、実際には無相関で因果関係自体もなくなっているのに気がついていないことだ。
まあ、社説は読んでいる読者より書いている論説委員のほうが多いという笑い話もあるので、そう目くじらを立てることもないかもしれない。しかし、記録としては残るわけで、マスコミの図表リテラシーはこの程度という例証になるだろう。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。