不安と課題を抱えてスタート
制度設計に当たり、大きなポイントになったのは刑事責任追及との関係だった。遺族には医療機関が真相を隠すのではないかとの不信がある一方、難しい診療行為では、事故か否かの判断が簡単でないことも多く、医師の側が責任追及を恐れ、命にかかわる診療科を志す人が減って産婦人科医不足が社会問題化すえるなどした。
これについて厚労省の2008年案は、通常の診療から大きく外れていたことが原因だった時などは警察に通報するとしていたため、医療界から猛反発が出た。今回、最終的に事故調は一歩後方に下がり、その前の院内調査に重点を置き、事故調は院内調査への助言、調査報告書の検証・分析などを担うことになった。調査の目的も、「再発の防止」と「医療の質の向上」とされ、責任追及が目的ではないので、事故調は警察に通報せず、「異状死」に該当するような不審なケースは従来通り医師法に基づいて事故を起こした医療機関が警察に届け出るとした。
もう一つの大きなポイントは、院内調査に外部の医師を入れるかどうかだった。院内調査に納得できない遺族が事故調に調査を申請した場合は一定の費用を負担することもセットで議論。「遺族に負担を求めるなら、院内調査が客観的なものでなければならない」との筋論が最終的に大勢を占め、「原則として外部の医療専門家の支援を受ける」ことに決まった。遺族の調査費用負担については、調査の申請を妨げない金額とするよう配慮し、所得によって減額することで決着した。
医療関係者と患者遺族の間の抜きがたい立場の違いを乗り越え、ひとまずまとまった枠組みは、妥協の産物。本当に患者サイドが納得できる調査が行われるのか、また、医師個人の責任追及に走らないのか。公正な調査を担う人材をどのように確保するかも含め、不安と課題を抱えての船出になりそうだ。