東日本大震災は、大槌町が「水の都」であることを改めて強く印象付けた。「町方」(まちかた)と呼ばれる中心市街地が津波で壊滅し、屋敷内にあった湧水地が、あちこちでその姿を現したからだ。清水は、震災後も枯れずに、こんこんと湧きだしている。
大槌町の湧水については、名古屋市の大同大学工学部の鷲見(すみ)哲也准教授が継続して調べてきた。鷲見さんによると、町方地区の湧水は、これまで170カ所で確認され、最終的には200カ所を上回ると見られている。
湧水は井戸から自噴し、海岸近くにありながら、海水の影響をほとんど受けていない。水温は1年間を通して11度前後で、豊富な水量と、良質な水質を維持している。
これらの湧水地の約3分の1が、復興に向けた土地区画整理事業の対象になっている地域内にあると見られている。土地区画整理事業では、平均して高さ2.2メートルの盛土をして宅地化する。このため、湧水地が埋もれてしまう恐れが指摘されている。
大槌町教育員会は、消滅する前に記録として残そうと、一斉調査を5月半ばに行った。調査は、56カ所の湧水地点で、同時刻に水位を計った。水温、水質を検査し、溶けている物質を分析するために採水した。参加したのは大槌町民や全国からのボランティアら約210人。「湧水のまち」として知られる愛媛県西条市や、東京都東久留米市からも多くの人がやってきた。
町方地区の住民は、湧水を飲用水にし、炊事、洗濯でも使ってきた。岩手県一関市から調査に参加した小山みね子さん(45)は「軟らかい味でおいしかった。この湧水でコーヒーを沸かして飲んでみたい」と話した。湧水で育った町議の後藤高明さん(76)は「ご近所の人たちがバケツでくんで、台所のカメに入れて利用してきた。埋めてしまわずに残してほしい」と訴えた。
参加者は、測定結果を報告後、町役場隣の体育館で開かれたシンポジウムに参加した。シンポジウムでは、京都市の総合地球環境学研究所の谷口真人教授が「大槌湾の海底にも多くの湧水があって、地下水が森と海をつないでいる。湧水は大槌に人を呼び寄せる力になる」と解説した。また、大槌町に生息している希少魚・イトヨを研究している岐阜経済大学地域連携推進センターの森誠一教授は「イトヨと、イトヨの生息を促している湧水は、地域の財産。まちづくりに生かしてほしい」と強調した。
調査を指導した鷲見さんは調査後に、こう話した。
「参加者の方々に、数多くの湧水が存在することを知っていただき、湧水と親しんでいただくことが出来た。湧水は豊富で、水温は年間を通じて安定している。ヒートポンプによる空調システムに利用するなど、復興の際のまちづくりに出来るだけ生かす工夫をすべきだ」
ともすると対立しかねない復興事業推進と湧水地の保護。復興本番を控え、大槌町が大槌らしさを生かしたまちづくりをするために、知恵と工夫が求められている。(大槌町総合政策課・但木汎)
連載【岩手・大槌町から】
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