イギリスで1500部しか売れていなかった新人作家の小説が、ある日突然、アマゾンの売り上げランキング1位に浮上し、品切れを起こす事態になってしまった。
実はこの小説、児童文学の金字塔「ハリー・ポッター」シリーズの著者JK・ローリング氏が変名で書いたものだったという。
「これがデビュー小説とは信じがたい」と書評がつく
新人作家ロバート・ガルブレイス氏による探偵小説「The Cuckoo's calling」は、戦争で片足を失い精神的にもすさんだ元軍人の私設探偵コーモラン・ストライクが、ロンドンを舞台にスーパーモデル自殺の謎を追う筋書きだ。2013年4月に刊行され、デビュー作ながら英語圏の各紙で「すばらしい作品で、次回作が待ちきれない。コーモラン・ストライクがあまりにも魅力的で、これがデビュー小説とは信じがたいほどだ」「最初に犯罪小説にハマッた時の気持ちを思い出した」などと好意的な書評が掲載された。
「著者略歴」によると、ガルブレイス氏は数年間ロイヤル・ミリタリー・ポリス(RMP)に従軍した後、RMPのいわゆる背広組・特別捜査部(SIB)に転属、捜査官としてキャリアを積んだ。2003年に軍を辞してからは、民間のセキュリティー産業に身をおいていた。主人公のキャラクターは自分自身や軍の友人が民間に戻った後の体験を元にしている、という。
この本が現地時間2013年7月15日、突然、Amazonの売り上げランキングで順位を5000位以上あげ首位に躍り出た。電子版でも同様で、「iTunes Book chart」のトップにつけた。
あまりの躍進に米アマゾンでは品切れを起こし、現在入荷まで1週間から3週間かかるようだ。出版社によると、増刷をかけている最中だという。
「もう少し秘密のままにしておきたかった」とJKローリング氏
いったいなぜ無名の新人作家がバカ売れしたのか。実は、ガルブレイス氏の正体は「ハリー・ポッター」シリーズの作者JK・ローリング氏であると、現地時間14日に英サンデー・タイムズ紙がすっぱ抜いていた。オックスフォード大学教授の解析によりわかったことで、ローリング氏本人は取材に対して変名の使用を認め「もう少し秘密のままにしておきたかった」「ロバートであることはとても自由な体験でした」などと話したという。
急上昇はこのニュースを受けたものだったらしい。英BBCによると、14日のある1時間で、アマゾンでの「The cuckoo's calling」の売り上げは、50万7000%も伸びていた。
有名作家が変名で作品を発表することはよくあるが、これだけ騒ぎになっているのは、スティーブン・キングがリチャード・バックマン名義で本を出していたことを1980年代後半に認めた時以来という。
なお、コーモラン・ストライクを主人公としたロバート・ガルブレイス氏の次回作はすでに執筆中で、来年にも刊行される。