「若者の投票率が低いと、政策は投票率が高い高年齢層に有利なものになりがちで、若者が損をする」
という話は、選挙が行われるたびに耳にする議論だ。
このほど東北大学の研究室が、若年層の投票率の推移と政府予算の統計を分析し、この説を実証した。研究によると、若年層の投票率が1%下がることに、若者は1人あたり年に13万5000円分の不利益を被ることになるという。
若者の投票率下がると新規国債増え、高齢者に手厚く配分される
研究を行ったのは東北大学大学院経済学研究科の吉田浩教授(加齢経済学)と経済学部加齢経済ゼミナール所属の学生。2013年7月21日投開票の参院選を目前に控え、東北大が7月12日に研究論文を発表した。
吉田教授によると、ゼミの学生が投票率を上げる方法について議論している時に、
「投票に行かない若者には『政治不参加税』を課税するのはどうか」
というアイディアが出た。これに関連して、
「すでに、若者は見えない形で経済的負担をさせられる部分もあるのではないか」
という意見も出され、今回の研究につながったという。学生が約2週間かけてデータを集め、吉田教授が統計分析を手伝った。
研究では1967年からの衆参国政選挙の年齢別投票率の推移と、毎年新たに発行される国債の額の推移、社会保障給付の世代別配分の関係を分析。その結果、若年層(20~49歳)の投票率が低下するに従って新規の国債発行額が増加し、社会保障支出も若年層より50歳以上の層に多く配分されていたことが明らかになった、としている。
額に直すと、若年層の投票率が1%下がった場合、「将来へのツケ」とも言える国債が若年者1人あたり年額7万5300円分新たに発行され、「若年世代1人あたりの児童手当などの家族給付の額」と「高齢世代1人あたりの年金などの高齢者向け給付」の額の差が年に5万9800円拡大。若者よりも高齢者への給付が手厚くなる様子を浮き彫りにした。この2つを合計すると、若年層1人あたり年に13万5000円分の経済的不利益を受けるという計算になる。
研究は「政治不参加のコストを認識して」と呼びかけ
吉田教授は「世代間対立を煽る意図はない」と話す一方で、研究では、
「若年世代はこのような政治不参加のコストを認識して、世代の声が国の政策に反映されるように投票に参加する行動を起こすことが期待されます」
と呼びかけている。
若者の「政治不参加コスト」を論じた例は、早稲田大学国際教養学部の森川友義教授(政治学)が09年に出版した「若者は、選挙に行かないせいで、四〇〇〇万円も損してる!?」 (ディスカヴァー携書)が知られている程度で、過去の統計データをもとに具体的な若者の損失額を試算する研究は珍しい。