政府税調、「非力」メンバーでスタート 多国籍企業の「租税回避」が当面のテーマ

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   安倍政権が発足して初めてとなる政府税制調査会(首相の諮問機関)がこのほど開かれた。安倍晋三首相は「民需主導の持続的成長と財政健全化を両立する必要があり、あるべき税制について審議していただきたい」と述べ、中長期的な税のあり方を検討するよう求めた。

   一方、具体的な税制改正は自民党税制調査会(野田毅会長)が決めていくことになっており、自民党政権での「税の決め方」が4年ぶりに復活した。政府税調が具体的にどのような役割を担うのか、曖昧なままのスタートになる。

自民党方式が復活

   2013年6月24日の初会合で、会長には中里実・東大教授が選出された。会合で安倍首相が具体的に挙げた課題は多国籍企業が税率の低い国の制度を利用して納税をのがれる「租税回避」の問題だけ。英国での主要8カ国首脳会議(G8サミット)で議題になったテーマだ。このほか、今国会で成立した共通番号制度関連法(マイナンバー法)に関し、国民所得の把握による税分野での活用策についても議題にする見通しだ。

   ただ、安倍首相が意欲を見せる「設備投資減税」については、「与党税調で議論されていく」(安倍首相)として、政府税調は事実上、蚊帳の外になりそうだ。これは、税制改正の実権が自民党税調に移り、政府税調の権限を狭くする「自民党方式」が復活したからだ。

   民主党政権は、財務相が会長を務める政府税調が税制改正を決め、一時は与党税調を廃止したほどだ。族議員の影響を排除するとともに、「インナー」と呼ばれる自民党税調の少数の幹部が密室で税制を決めていくやり方を「不透明だ」と批判してのことだ。

   しかし、「税金は国民各層の利害が錯綜するだけに、きれいごとでは決められない面がある」(与党筋)。実際、野田佳彦内閣主導で進めた消費増税は民主党内の反発を収めきれず、党分裂を招いたように、民主党のやり方も失敗した。

   このため、安倍政権は、与党税調と政府税調の二元体制で税制論議を進める自民党方式に戻した。

政治力は未知数

   しかし、新たな政府税調については、党税調に対して「非力」(財務省OB)との指摘もある。かつての政府税調は、故小倉武一会長(1974~1990年)、故加藤寛会長(1990~2000年)のように強烈な個性で政治とも渡り合い、あるいは政治と二人三脚で、消費税導入(1988年)、地価税創設(1991年)、消費増税(1997年)などの難題を処理。同時に、税法のサジ加減ひとつで個別の業界を潤すことができる100種類以上もの租税特別措置(租特)という最大の政治利権をめぐり、政府税調が党税調と一定の緊張関係を持って牽制する場面もあった。これも、「大物会長」の政治力あればこそという側面は否定できない。

   新会長の中里氏は政府税調の専門家委員を長く務めたとはいえ、50代という若さもあって知名度は高くなく、政治力は未知数。初会合後の会見で、政府税調からの発信について「与党税調で議論が展開されるので、必要に応じてできることがあればやっていく」と述べるにとどめ、慎重な姿勢に終始した。今回の起用について政界などでは「国際課税に詳しく、多国籍企業による国際的な租税回避が注目を集めていることが決め手になった」との解説が聞かれる。「高支持率を背景に、首相自身のリーダーシップで物事を決めていきたい安倍さんは、自身の流儀にかなう実務家を選んだ」(与党筋)というわけだ。

   安倍政権は今秋、来年4月に予定通り消費税率を8%に引き上げるか否かの判断をするが、「中長期」の視点では、消費税を含め財政再建に向けた税制の将来像をどう描くかという大きな課題がある。政府税調が政治任せでない専門家らしい議論をできるか、注視する必要がある。

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