わいせつな写真をCG加工した画像で、児童ポルノ禁止法違反――。岐阜市の52歳の男が、全国初となるケースで逮捕となった。
実在する少女の写真をもとに精巧に加工された画像だったため、CGでも同法による取り締まり対象になったようだ。ではCGではなく、「絵」そのものだったらどうだろう。弁護士がインターネット上で論じている。
「実在の児童の姿態を描写」すれば違法に
逮捕された男は、1980~90年代の出版物から10代前半の少女の裸の写真をパソコンに取り込み、CG加工したうえで2012年12月に販売した疑い。2008年以降、計1400本を売ったとされる。
本人のものと思われるツイッターのアカウントが残っていた。2009年後半あたりに、今回問題となった自作の「写真集」を制作している様子がたびたび投稿されている。この時点ですでに同様の作品を出していたようだ。
画像の加工はかなり精巧だったようで、髪型や姿勢を一部変え、顔が元の少女とよく似ていたという。CGといっても加工はほんの一部で、ほぼ原画のままだったという報道もあった。
「写真をもとに描いたCG」が法に触れる根拠について、落合洋司弁護士が2013年7月11日付のブログで、「電脳空間における刑事的規制」(渡邊卓也氏著)を引用して解説している。「『絵』であっても、実在の児童の姿態を描写したものについては、『その他の物』に該当するとされている」という。
「その他の物」について、児童ポルノ禁止法第2条3項に記載があった。児童ポルノを「写真、電磁的記録…に係る記録媒体その他の物」で、児童による性交や裸体といったわいせつな描写と定義している。今回のケースでは男が、もともと存在した写真、つまり実在する児童を写した写真を加工したので、「警察は、おそらく、この考え方に立って立件したのでしょう」と推測した。
奥村徹弁護士も、7月12日付のブログで絵と児童ポルノ禁止法の関係について触れている。引用した2005年刊行の「よくわかる改正児童買春・児童ポルノ禁止法」(森山真弓氏・野田聖子氏著)の中で、「この法律では絵が規定されていません。絵は児童ポルノには含まれないのでしょうか」との質問に対してこう回答されていた。
「この法律では、児童ポルノの定義に『絵』を明記していませんが、『絵』は児童ポルノの定義の中の『その他の物』に合まれ、児童ポルノに該当することもあり得ると考えます…絵についても実在する児童の姿態を描写したものと認められるなら、児童ポルノに当たり得ることになります」
「このタイミングで逮捕…『意図』を感じざるを得ない」
ただ落合弁護士は、実在の児童をモデルにした「CGを含む絵」の場合でも、議論の余地があるとしている。「電脳空間における刑事的規制」には、「性的搾取・虐待については想像に過ぎないものや全くの想像の産物との区別が困難」との見解があるという。現行法では、人間のモデルが実在しないキャラクターは児童ポルノ禁止法の対象に含めていない。だが「モデルは存在するが、性的表現は空想で実際の場面を描いていない」という場合まで規制されるのか、線引きが微妙になるという。続けて落合弁護士は、こうも指摘した。
「実在する児童に依拠していれば絵やCGでも児童ポルノである、という考え方が強くなればなるほど、実質的に非実在のそれの取締りに近づくことは避けられず、今後の法改正の流れにおいても、本件は、1つの注目すべきケースになるように思われます」
つまり「モデルが実在しないわいせつ画」も将来は摘発の対象とするべく、今回が最初の1歩になるのだろうか。
児童ポルノ禁止法は先の通常国会で改正案が提出され、継続審議となっている。児童ポルノ画像を所持すること自体を禁止する案を盛り込んだうえ、漫画やアニメと、児童の権利を侵害する行為との関連性についての調査研究を検討事項として加えた。「漫画やアニメを規制対象にするのか。表現の自由に反する」と、業界団体を中心に強い反発が起きている。
法案を巡って議論が紛糾しているなかで起きた今回の逮捕劇。漫画・アニメではないが、「CG化」された画像でも違法となる点を示したことで、インターネット上には「こりゃ本気で規制きますなぁ」「このタイミングで逮捕に踏み切ったことには『意図』を感じざるを得ない」との声が上がっている。また法案に反対しているみんなの党、山田太郎参院議員は7月12日にツイッターで「CGの児童ポルノの件、本日警視庁に詳細事実確認をする予定です」と書き込んだ。