米国で発生した韓国・アシアナ航空機の着陸失敗事故をめぐり、韓国内の世論が沸騰している。米国家運輸安全委員会(NTSB)やメディアが、事故の原因を同社韓国人パイロットの「操縦ミス」ではないか、と疑惑の目を向けているからだ。
もちろん韓国は猛反発、航空会社から政府までがそろって「原因の決め付けは時期尚早」などと唱え、空港設備や機体に「真犯人」を求めようとする。凄惨な悲劇への追悼ムードは一転、なんとも生臭い空気になってきた。
操縦未熟説に「うちのパイロットは優秀だ」
事故は米サンフランシスコ国際空港で2013年7月6日(日本時間7日)に発生、着陸失敗により機体が大破し、中国人乗客2人が死亡、また182人が負傷した。
エンジントラブルなどが確認されていないこともあり、原因としては早くからパイロットの「操縦ミス」説が指摘されてきた。特に操縦していた副機長は、事故を起こしたボーイング777機での飛行経験が43時間と少なく、「教官」をつけての習熟期間中だった。その教官も、飛行はベテランだったが指導はこれが初めて。速度維持装置が誤って切られていた可能性も指摘されている。米NTSBがこうしたパイロット側に不利な事実を次々と公表していることもあり、米国では「操縦ミス」説がすっかり主流だ。
対して、韓国側はいらだちを隠さない。アシアナ航空のユン・ヨンドゥ社長は「運航の全責任は教官役の機長にある」と原則論を述べつつも、「2人のパイロットは経験豊富で優秀」などと繰り返し発言するなど「操縦ミス」説には真っ向から反論、また国土交通省の担当者も9日の会見で、「NTSBの発表だけではパイロットの過失とは判断できない」と慎重論を唱える。
操縦ミスなら韓国側の責任逃れられず
操縦ミス、となれば、責任はアシアナ航空側にふりかかってくる。ひいては韓国の「国威」にもつながる問題だ。そのせいか、韓国メディアではなんとかパイロット以外の「犯人」を探そうとしている。B777の欠陥、あるいは空港の設備が故障中だった――もっとも現時点では、これらの主張は旗色がいいとは言えない。しきりに機体不良説などを唱えていた朝鮮日報も11日に入り、不利な物証の増加に「操縦士が速度維持装置を切った可能性も」「調査の重点は『操縦士の過失』の方向に」とさじを投げるような記事を公開している。韓国の総合メディア「イーデイリー」などは半ば八つ当たり気味に、
「NTSBからは事故原因をパイロットの過失といわんばかりの発言が漏れる。それもそのはず、原因が機体の欠陥にしろ空港にしろ、責任は米国の肩にのしかかってくるからだ」
と、米国が韓国に責任を押し付けようとしている、と主張する有様だ。
事故は「韓国政府の陰謀」?噂広がる
となれば、韓国ネットユーザーもさぞ憤激――と思いきや、ネット上ではもっぱら「現実逃避」ムードが漂っている。
事故直後から韓国のSNS上で広まっているのは、「事故は政局打開のための、韓国政府の陰謀」という珍説だ。朴槿恵政権発足から約半年、政界は2007年の南北首脳会談での盧武鉉元大統領の失言問題、また国家情報院による大統領選挙介入疑惑などが相次ぎ、政権浮揚のきっかけをつかめていない。その打開のため、こんな事故をでっち上げたのでは――もちろん根も葉もない話だが、韓国ネットではかなり広がり、大手メディアにも取り上げられるほど。なんにせよ、今回の事故が韓国社会に大きな衝撃を与えたことは間違いないようだ。