「電気さん、ありがとう」――。2013年7月11日の朝日新聞に掲載されたコラムが静かな話題を呼んでいる。
コラムによると著者は原発事故以来、節電運動に取り組み、冬は火鉢を使い、夜はほとんど電灯を点けない生活をしているというのだ。
著者の名前は稲垣えみ子さん。朝日新聞の社会社説担当の論説委員だ。インパクトのあるアフロヘアーの顔写真も注目を集めている。
暖房は火鉢、電灯はほとんど点けず電気代は月702円
掲載された「社説余滴」は朝日新聞の論説委員が社説欄とは別に署名入りで記事を書いているコラムだ。
コラムによると稲垣さんは「誰でもできる個人的脱原発計画」を進めている。自ら「子どもじみた発想」と認めた上で、「私が電気を購入する関西電力の原発依存度は約5割だった。もし全ての関電ユーザーが消費電力を半減すれば原発は不要だ」と考えて、節電運動に取り組んでいるという。
様々な取り組みの中からコラムでは2つを挙げている。1つは暖房に火鉢を使うこと。いわく、「驚くほど手間がかかり、しかも全く暖かくない。だが凍える朝、必死に炭をおこす期待感と、火がついたときの喜びといったらない」。近代の技術に頼らぬ生活様式に「これってむかし学校で習った清少納言の世界?安倍首相、私、日本を取り戻しました!と言いたい」と饒舌に語る。
もう1つは「夜はほとんど暗闇で過ごしている」というものだ。手探りではどうにもならない時だけ電灯を点けるという。その明るさに、「心から『電気さん、ありがとう』と思う。このすばらしい電気を作るために汗を流す人に、心から感謝したい」と思うそうだ。
稲垣さんのこうした取り組みは1か月の電気代に表れる。震災前から2000円台とかなり抑えられていたが、現在は1000円を超えることはないという。最低記録は702円とほとんど基本料金並だ。稲垣さんは「独身ならではの数字だが、大成功だ」と喜ぶ。
こうした個人の体験をもとに、電気を「安価に使える当たり前の道具」ではなく、「すばらしい貴重品」として考えたいと記事をまとめている。