「インターネットで地方から情報発信」「ネットが地方を活性化」。これまでもたびたび語られてきたテーマだ。しかし今、また形を変えて、ウェブ業界で「地域」への注目が集まりつつある。キーワードとなるのは、コンテンツの「地産地消」だ。地元住民のために、地元の情報を、という狙いだ。
「地域」「ご当地」をテーマにしたウェブサービスはネット黎明期からたびたび注目を集めてきた。
「よそにはない」ものが地元にはある
たとえば地域ポータルサイトの代表格の1つ「まいぷれ」は、2000年4月に船橋市で産声を上げ、そこからネットワークを拡大、今や北は北海道、南は沖縄まで各地の情報を配信している。
もっとも一部の例を除くと、こうした「地域情報」サイトは観光情報など「地方から都市へ」型の発信が多く、「地方の情報を、同じ地方の人が受け取る」ネット文化は、なかなか根付いてこなかった部分もある。
一方で、風向きが変わる気配も感じられる。たとえばかつては、地方にはネットを日常的に利用する人自体が少ない、という問題もあった。しかし最近ではスマートフォンの普及もあって、都市・地方を問わずより多くの人が「普通に」ネットに触れるようになり始めた。スマホの普及率は2012年末時点で全国平均31.4%、少ない都道府県でも20%以上に及び(総務省・通信利用動向調査)、「格差」が急速に縮まっている。
また近年の「B級グルメ」ブームなどを通じた地元の「食」の再評価、「ゆるキャラ」に代表されるような地方発の盛んな情報発信などを通じ、自分たちの町に「よそにはない」ユニークな「コンテンツ」があることに、当の地元の人々自身が気づきつつある。
地域同士の「お国自慢」大会開催?
こうした中で、地元発の情報を、ネットを通じて地元の人に届ける――そんなご当地情報サイト「Jタウンネット」を、ジェイ・キャストが2013年7月10日オープンした。
特色は、ご当地コンテンツの「地産地消」を柱に据えたことだ。グルメやショッピング、イベントなど地元の生活に密着した情報を都道府県ごとに配信するとともに、ユーザーからもスポットなどに対するクチコミや、写真投稿を広く受け付ける。旅行や観光よりも、ご近所で楽しめる「おかいもの」「おでかけ」「おさんぽ」を――それが、このサイトの1つの軸となっている。
またサイト全体の企画として、定期的に「あなたの地元の『ご当地牛乳』は?」「都道府県ラーメン決定戦」などのお題で投稿を募る。いわば地域同士の「お国自慢」大会というべきか。このほかエリアターゲティング技術で、アクセスしたユーザーが住む都道府県を判別、自動的にその「地元」のページを表示するのも特長だ。
ツイッター、LINEも「ご当地」に注目
地元住民のために、地元の情報を――こうしたアプローチは、近年注目されている。
たとえば米ツイッターは6月、地域情報アプリを手がける新興企業「Spindle Labs」を買収し、ツイッターの開発チームに取り込んだ。Spindle Labsのアプリは、ユーザーの位置情報を元に、近所の店舗などのつぶやきを地図上に表示するもの。今回の買収は、ツイッターのこうした「地域情報」強化の布石と推測されている。
日本で注目を集めるのは、LINEだ。たとえば熊本市の下通商店街では7月から、32店舗が一斉にLINEを導入、地域ぐるみで住民とつながり合うという新たな試みに挑戦している。クーポン配信なども生かし、O2O(オンラインからオフラインの購買行動へ)を推進、商業活性化につなげようという構想だ。発信側とユーザーがいわば「一対一」で結びつくLINEは、こうした地域単位の取り組みとは相性がいい。LINEの森川亮社長も、2013年という年はLINEが「地域活性化」に乗り出す年だとブログで宣言する。
地域と密着したインターネット文化が実現する日は近いのかもしれない。