インターネット選挙の解禁を目前に控え、政党や立候補予定者は着々と準備を進めるが、有権者の理解はあまり進んでいないのが現状だ。
一般有権者はメールで選挙運動ができないことなどは意外に知られておらず、ちょっとした不注意が選挙違反に問われ、悪くすると禁固刑に処せられる可能性もあるのだ。
街頭演説の動画を撮影して投稿することもできる
調査会社のクロス・マーケティングがセキュリティ会社のシマンテックと共同で5月31日から6月3日にかけてネット上で行った調査によると、「見聞きしたことがあるし、何を指すかも知っている」と答えた人は38.8%にのぼる反面、「見聞きしたことがあるが、何を指しているのかはっきりとは分かっていない」と答えた人も44,4%にのぼる。
今回の参院選から、一般有権者はツイッターやフェイスブックをはじめとするソーシャルメディアを利用して「●△さんに投票しよう」といった呼びかけができるようになる。候補者の街頭演説の動画を撮影してニコニコ動画などに投稿することもできる。
メールマガジン転送も法律に抵触する
分かりにくいのがメールの利用だ。候補者や政党は事前に同意を得たメールアドレスに対してメールを送信することができるが、一般有権者には認められていない。
メールで投票の呼びかけをすることはもちろん、候補者や政党から送られてきたメールマガジンを転送することも新たな送信行為とみなされ、法律に抵触する。
メールの利用が立候補者や政党に制限されている理由として、総務省では(1)誹謗中傷やなりすましに悪用されやすい(2)立候補者や政党が送信する場合でも送信先には複雑な規制があり、一般の有権者の場合、法律で認められていない送信先に誤って送信してしまう可能性もある。その場合は処罰され、さらに公民権停止になる危険性が高いため、その可能性を防いでおく(3)一般有権者にとってはウイルス対策などが負担になる、といった点を挙げている。
上記の(2)で挙げられた罰則は2年以下の禁錮から50万円以下の罰金と意外に重い。候補者や政党と同様の対策を一般有権者に求めるのは難しく、ケアレスミスで法律に違反するリスクを考慮した、ということのようだ。
自分がメールを送る以外にも、メールに添付されたビラを印刷して配ったりしても「文書図画の頒布」にあたるため、従来どおり選挙違反になってしまう。
ツイッターの「お知らせメール」は法律違反にはならない
これらの規制の対象になっているのは、一般的に利用されている「SMTP」という送信方法のメールと、電話番号を入力して通信するショートメール(SMS)。
反面、一般有権者がツイッターやミクシィ(mixi)のダイレクトメッセージ機能を使って個別に呼びかけることは認められている。公選法上は、これらのサービスは「ウェブサイト等」にあたると解釈されているからだ。
ただ、ツイッターでダイレクトメッセージを送ると、それを受信した人には「●●さんからダイレクトメッセージが届きました」というタイトルのメールも届く。メール本文にはダイレクトメッセージの内容が書かれており、受信者は改めてツイッターにアクセスしなくても事足りてしまう。実質的にメールを送っているようにも見えるが、総務省では、
「メールはあくまでも(ツイッターのダイレクトメッセージの)受信者側の設定に従って送られるもので、送信者側が(SMTPメールを送ることを)意図したものではない」
という理由で問題ないとの見解だが、いかにも分かりにくい。
ネット選挙が解禁されても、投票日の選挙運動は引き続きできない。選挙期間中に書き込んだブログやツイッターの内容を消す必要はないが、投票日に新たな書き込みをするのは御法度だ。
「投票なう」といったツイートも、ツイートと一緒にアップロードした写真にポスターが映りこむなどして特定の候補への投票を呼びかけていると解釈されると、選挙違反に問われるおそれがある。