巨人軍の渡辺恒雄球団会長(87)が2013年7月1日に、記者団に対し日本野球機構(NPB)の次期コミッショナーに、ソフトバンクの王貞治球団会長(71)に就任してもらいたいなどと語った。統一球問題で進退問題が浮上している加藤良三コミッショナー(71)の起用で動いたのが渡辺氏あっただけに、その「尻拭い」で次期候補として王会長の名を挙げたのではと見る向きが多い。
王会長は体調の問題を挙げ、就任に難色を示しているようだが、専門家によれば就任するかは五分五分で、最大のネックは王会長と巨人軍、そして渡辺氏との因縁と確執。渡辺氏が「土下座」して頼むくらいの真剣さが必要なのだという。
ナベツネ氏発言で加藤コミッショナーの命運は尽きた
もともとこの問題は今期使用されたボール(統一球)が「飛ぶ」ように仕様変更されたにも関わらずそれを公表していなかったこと。加藤コミッショナーはそれを知らなかった、などと曖昧で無責任な発言を繰り返して非難を浴びた。13年7月1日には自身の進退について「私の評価というのは結局、歴史がする」などと語り辞任しない意向を示した。
同じ日に渡辺会長は記者団の質問に対し、次期コミッショナーの話題に触れ、人格、識見、人柄、これ以上の人はいないという適任者がいる、と答えた。その適任者というのは王会長なのだという。ただし加藤コミッショナーについては自分が頼んで就任してもらった人だから辞めさせるのは失礼だ、とも語った。
この渡辺会長の発言を知った王会長は同日に記者団に対し、そのような大役を受けられる自信がないし、体力的に務まらないなどと就任を否定した。
なぜ渡辺会長は今回、王会長に白羽の矢を立てたのか。そして王会長のコミッショナー就任はあるのか。スポーツジャーナリストの工藤健策さんはまず、渡辺会長の今回の一言によって加藤コミッショナーの命運は尽きた、という。そして、次のコミッショナーに最も適任なのは王会長であることは間違いないものの、渡辺会長には別の大きな2つの思惑があるのだという。
一つはこれを機に王会長を読売グループに取り込むこと。もう一つはプロ野球選手会がコミッショナーに望むことの一つにビジネスセンスがあり金儲けができて選手の年俸を上げる、ということがあるが、その考えを押さえ込むのが狙いという。
コミッショナーというのはもともと絶対権力者で、例えば司法のトップというような存在だったが、メジャーリーグでコミッショナーがお金儲けの先頭に立ち利益をもたらしたことを日本でも見習おうとしてきた。ただし、アメリカと日本では野球を支援しようという企業のパイに格差があり、アメリカのようになろうというのは土台無理な話。それを知っている世界的なプロ野球の権威である王会長に、選手会を納得してもらおうという狙いなのだという。
王会長は助けてくれと頼まれれば断れないタイプ
それでは王会長がコミッショナーに就任するのかといえばいくつかのハードルがあるのだという。まずソフトバンクの球団会長との掛け持ちは難しいため辞任しなければならないが、王会長はソフトバンクに並々ならぬ恩義を感じている。そして、雪解けしたとも言われているが、王会長はかつて巨人軍を追い出された経緯があり、オーナーの渡辺会長との因縁、確執がのこっているはず、というのだ。
「コミッショナーは12球団のオーナー会議で決まりますが、どうしても王さんに受けてもらいたいなら、ナベツネ氏以外のオーナーが束になり説得することが必要かもしれません」
と話している。
スポーツジャーナリストの菅谷齊さんは、
「王さんが引き受けるかどうかは五分五分の微妙な状態です」
と分析している。実は、王会長をコミッショナーにしようという動きは数年前から密かに進んでいた。それは野球をよく知らない官僚の天下り先にコミッショナーがあるということに疑問を感じている人が多く、王会長も自分が推されていることを知っていたはずだ、というのだ。
加藤コミッショナーも元外交官で、そんな彼を推薦したのは他でもない渡辺会長だった。今回のゴタゴタで渡辺会長は自身の「尻拭い」をしなければならず、誰もが認める王会長を選択するしかなかった、というのが菅谷さんの見立てだ。しかし、2人には長きにわたる因縁と確執がある。
「選手を見下す発言で有名なナベツネ氏ですが、今回ばかりは真剣に頭を下げるのではないか。王さんはピンチだから助けてくれと頼まれれば断れないタイプですからね。最終手段として長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督に説得させるかもしれません。プロ野球で、先輩と後輩の関係は絶対ですから引き受けざるを得ないのではないでしょうか」
と菅谷さんは話している。