国産牛の牛海綿状脳症(BSE)の全頭検査が、ようやく終わる。2001年9月の国内でのBSE発覚を受け、同10月から12年近く続いてきた。専門家の間では「科学的な意味は薄れていた」との声が多いが、BSEには分かっていないことも多く、消費者の不安が完全に払しょくされたとは言えないようだ。
2003年以降に生まれた牛では未確認
BSEは、牛の脳に異常プリオンがたまり、脳がスポンジ状になってしまう病気で、感染した肉を食べた人はクロイツフェルトヤコブ病を発症する恐れがあるとされる。厚生労働省は国内で感染牛が確認された直後から、出荷前のすべての牛をチェックする全頭検査を実施し、感染が確定した牛は市場に出さないようにした。
しかし、生後20か月以下では感染した牛が見つからなかったため、2005年8月、検査対象を「生後21か月以上」、さらに今年になって、「30か月超」に緩和した。しかし、自治体独自の全頭検査は継続されていた。
そして2013年4月上旬、食品安全委員会が「48カ月以下は不要」との答申案をまとめたのを受け、厚生労働省と農林水産省が見直しを検討。5月には、国際機関「国際獣疫事務局」(OIE、本部パリ)が、日本をBSEのリスク評価で最も安全な「無視できる国」に格上げた。OIEは、(1)過去11年以内に自国内で生まれた牛で発生がない(2)飼料規制を8年以上実施――などの条件を満たしたと判断したものだ。
これを受け、厚労省は6月3日、7月1日から検査対象の国産牛を、48か月超に縮小するよう省令改正した。「全頭検査」といっても、正確にはこれまでも検査対象は全体の約4割だったが、今回の改正で約2割に減り、名実ともに「全頭」ではなくなる。
国内でBSE感染牛は過去に36頭見つかっているが、2003年以降に生まれた牛では確認されていない。BSE感染は、牛や羊などの骨や内臓を砕いた飼料「肉骨粉」に感染牛のものが混ざり、これを牛が食べることが主因とされている。このため、感染発覚当初は、全頭検査も大いに意味があったとされる。
しかし、その後、肉骨粉を飼料としないことが徹底されている。併せて、異常プリオンがたまる牛の脳や脊髄などの危険部位を取り除く対策も進められてきたことから、全頭検査の意味はないというのが、多くの専門家の一致した見解だった。
「緩和措置は時期尚早」の声も
検査を実施してきた自治体は「自分のところだけ廃止すれば、風評被害が出かねない」(畜産県担当者)と、横並びで続けてきた。このため、厚労省の今回の政令改正を受けた全頭検査廃止も、横並びで全国一斉ということになる。
全頭検査廃止で、BSE対応に"かかりっきり"状態だった食肉処理場に余裕が生まれ、獣医らが、BSE以外の病気の家畜の排除や伝染病の防止など、本来の任務に力を割けるのはメリットだ。特に、O157など病原性大腸菌による食中毒はここ数年、年間約20~50件発生し、昨年は8人が死亡しており、食中毒防止の効果が期待される。さらに、国産牛の輸出に力を入れたい農水省は国産牛のイメージアップに期待する。
ただ、これで消費者の不安が完全に払しょくされるかは、疑問も残る。BSEの原因は、肉骨粉ばかりが注目されるが、自然に発生する「非定型」もあり、主に8歳以上の高齢牛で発生するとされるが、これについて、まだテータの蓄積は十分でなく、分かっていないことが多いという。このため、「緩和措置は時期尚早」(消費者団体)との不安の声は根強く、全頭検査の廃止が牛肉の消費に影響することを懸念する向きも一部にはある。