「もし事実ならば、EUと米国との関係に深刻な影響を及ぼす事態だ。米国に対し、速やかに説明を求める」(欧州議会・シュルツ議長)
「事実だとすれば断じて受け入れられない」(仏・ファビウス外相)
「まるで冷戦中の、敵国のやり口を思い出させるものだ」(独・ロイトホイサーシュナレンベルガー法相)
米情報機関による「盗聴」報道に対し、各国がそろって憤りをあらわにしている。ところがやはり標的にされたはずの日本はというと、「確認したい」となんとも弱々しい。
シュピーゲル誌「米国からの攻撃」と見出し
2013年6月30日、独誌「シュピーゲル」と英紙「ガーディアン」は、米国家安全保障局(NSA)がEU、そして38の駐米大使館・公館などを盗聴の「標的(ターゲット)」にしていたことを相次いでスクープした。
NSAは国防総省に所属する諜報機関で、3万人の職員、世界中に張り巡らされた傍受システム「エシュロン」などを擁し、1日に17億件の電話やメールの傍受を行っているとされる。一方でその全容は極秘とされており、これまでたびたび行き過ぎた情報収集が問題化してきた。
2013年6月には元CIA局員のエドワード・スノーデン氏が、ネット上での情報入手の実態などを暴露しており、今回の各国への「盗聴」も、現在ロシア滞在中とされるスノーデン氏が提供した資料などから発覚した。
盗聴は建物内や通信機器に小型の装置を仕込み、特殊なアンテナで通信を傍受するなどの方法で行われ、さらにはネットワークに侵入して内部文書、また電子メールなどまでも入手していたという。監視対象には中東諸国など米国と緊張関係にある国々だけでなく、EU諸国、またメキシコ、韓国、インド、トルコ、そして日本といった「同盟国」も多数含まれる。シュピーゲル誌が「米国からの攻撃」と見出しを打ったとおり、「背信」行為といわざるを得ない。
「まずは外交ルートを通じて……」と繰り返すばかり
菅義偉官房長官は2013年7月1日、記者会見でこの問題に触れたが、その調子はいささか他人事めいた感が否めない。
「そうした報道については承知しておりますが、報道された内容の真偽については定かではない。ただ、我が国としてもですね、当然本件については関心を有しているところであって、しかるべき確認を求めることにしていきたいと思っています」
とはいえ確認を求めたところで、米国が「はい、やりました」と答えるだろうか。EUでさえ2001年、NSAの通信傍受疑惑を追及するため代表団を訪米させたが、「門前払い」を食らったことがある。しかし菅官房長官は「まずは外交ルートを通じて……」と繰り返すばかりで、日本政府による独自追及などにも消極的だった。
政界の反応も鈍い。これが他国による盗聴なら蜂の巣を突いたような騒ぎになりそうなものだが、
「これは、とんでもないニュースが飛び込んできたものだ。日本の危機管理についても考えさせられますが」(自民・三原じゅん子参院議員)
「各国政府は米国に説明を求めるだろうしTPP等の交渉にも影響がでかねない。事実ならば国益に直結する問題」(自民・佐藤正久参院議員)
といったつぶやきのほか、言及はほとんどない。安倍晋三首相も、フェイスブックを1日午後に更新したが、話題は福島視察についてのみだった。
ネットの反応もあまりなく、米国の背信を目の当たりにして、妙に重苦しい空気が漂う。元外務官僚の孫崎享氏はツイッターでこう皮肉っている。
「EUは抗議した。独は抗議した。アメポチ日本はどうする。当然しない。属国、奴隷国が宗主国に抗議するなどあり得ない」
「自民党の議員、どなたか"パートナーは互いをスパイしない"と言ってみて」