プロ野球選手会の、堪忍袋の緒が切れたようだ。「お辞めになったらいかがですか、コミッショナー殿」と言わんばかりの要望書を総本山に出したのである。「ボールすり替え事件」は、深刻な事態に発展している。
第三者委員会はきちんと機能するのか?
「統一球問題に関する当会の要望と見解」と題されたその文書の内容は、これまでのコミッショナーの怠慢ぶりをなじるものだった。堰を切ったような苦言である。
「これまでのコミッショナーは消極的だった」
そして、加藤コミッショナーの退陣を求めているのだ。新しいコミッショナーの条件まで明記されており、退陣を求めるメッセージは相当に強い。
飛ばないボールが飛ぶボールに代わっていたことが発覚したとき、2度ほど記者会見に姿を見せた後、コミッショナーは隠れたまま。第三者委員会に事件の真相究明を丸投げし、知らんぷりなのである。
本来なら、コミッショナーは選手会と会い、事情説明するのが筋だろう。加藤コミッショナーは12球団の代表を集め説明したが、選手ごときに、という態度が見える。選手会が「辞めろ」と、怒りの最後通牒をのど元に突きつけた心情は分かる。
だいたい第三者委員会を設けた意味が分からない。「私の責任で業者に指示した」と語った事務局長が真相を話せば済む話ではないか。それで困るのはコミッショナーなのだろう。
この委員会は6月28日に最初の会合が行われ、報告書は「9月末をメド」としているが、そんな大げさなものではない。指示したところ、指示されたところが分かっているのだから、1週間もあれば明らかになる。
委員長を務める那須弁護士はこう言った。
「12球団、選手、ファンの方々を重要な利害関係者と考え、すべての方々に納得してもらえる報告書を作る」
この問題には解決策などなく、すべてが納得することなどありえない。委員会は魔法使いか、と言いたくなる。せいぜいコミッショナーと事務局長をクビにし、業者を変えることぐらいしか手はないだろう。
選手会の要望書は、むしろ委員会にとって助け船みたいなもので、一刻も早くコミッショナーを交代させたらいい。
桑田元選手が特別アドバイザーとして委員会に加わっているのも意味不明である。日米でプレーした経験があり、ボールの違いが分かる、といったところから選ばれたようだが、この委員会はボールすり替えの真相を明らかにすることが仕事であって、ボールが飛ぶ、飛ばないは、もはや議論すべきことではない。
つまり第三者委員会は、ボールに焦点を合わせることで、問題の所在をも「すり替え」ようとしているのではないか。すり替えを画策した「悪いヤツ」を明確にして処分するのを選手もファンを待っているのに、だ。このままでは茶番になる。
(スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)