英国・北アイルランドで開かれていた主要国首脳会議(G8サミット)は2013年6月18日、首脳宣言に、多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調などを盛り込んだ。各国の財政事情の悪化で税収を少しでも上げたいという背に腹は代えられない事情が』背景にある。
ただ、一方で、先進国を含め、税率を低くすることで企業を誘致しようという競争は続いており、実効ある措置がとれるか、疑問視する声もある。
OECDが今月中にも課税逃れに対する行動計画
G8が企業による課税逃れを問題視する背景には、2008年のリーマン・ショック以降、各国の財政が悪化し、増税や社会保障の縮小など緊縮策を余儀なくされる国が増えていることがある。
具体的に課税逃れが問題になるのが、英領ケイマン諸島など法人税率などの低い租税回避地(タックスヘイブン)に設けたペーパーカンパニーへの利益移転。利益を生む商標権や特許権などの無形資産をここに安く売却、譲渡することで、権利使用料による収益をこのペーパーカンパニーにため込む。 利益が税率の高い先進国から、低いタックスヘイブンに移るので、企業グループ全体で支払う税金の総額は少なくできる。
こうした事態の改善を目指し、今回のサミットでは、経済協力開発機構(OECD)と連携し、「多国籍企業がどこで利益を生み、税を払っているか」を把握する仕組み作りを進めることで合意した。OECDは6月中にも、課税逃れに対する行動計画をまとめる方針で、7月にモスクワで開く主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に報告する予定。具体的には、例えばタックスヘイブンのペーパーカンパニーへの特許権などの無償・格安での譲渡などが規制の対象になる見通しだ。
英キャメロン政権が音頭取る
この問題は、長年の懸案で、今回のサミットでも、最近まで、主要テーマとはされていなかった。それが、最大のテーマに急浮上したのは、主催国・英国をはじめとする各国の政権運営の思惑があった。
英国では昨秋、世界的コーヒーチェーン・スターバックスの英国法人が、売上げの割りに 法人税をわずかしか納めていなかったことが発覚。税率の低い海外の関連法人に対して、材料費など多額の経費を支払うことで、税額を抑えていたなどとされ、不買運動に発展するなど、世論が沸騰した。緊縮策に苦しむ市民の怒りを背景に、英キャメロン政権は、課税逃れ対策をサミットの主要議題とする方針を打ち出しで議論を引っ張った。
米国ではアップルの「節税」も浮上した。5月に米議会上院が、アップルは低税率国アイルランドに利益を集めているなどとする報告書を提出。アップルは「ケイマン諸島など(タックスヘイブン)は使っていない」(5月21日の公聴会)と弁明するが、「巧妙な節税術」との国際的批判が高まった。
ただし、そもそも、サミット議長国・英国の思惑には疑念がささやかれる。ケイマン諸島やジャージー島などタックスヘイブンの多くは英国領。また、英国自身が法人税率を26%から今年4月に23%に下げ、2014年4月からはさらに21%まで下げる予定で、企業誘致のための法人税引き下げ競争の先陣を切っており、「こうした方針への批判回避のため、今回のサミットで企業の課税逃れ問題をあえて取り上げた」(NGO関係者)との冷ややかな見方もある。
法人実効税率が37%と先進国で米国に次いで高い日本でも、法人税率引き下げを求める声が強まっており、税率引き下げ競争に"参戦"する構えも見せる。
G8内ですら「国内の税制など、既存の制度を変えるのは簡単ではない」などとして、ロシアやカナダが消極的な姿勢を示したとされるなど、各国の利害・思惑が複雑に絡むだけに、今回の合意がどこまで実効ある措置に結びつくかは未知数だ。