衆院の小選挙区定数を「0増5減」させる新区割り法案が2013年6月24日午後の衆院本会議で採決され、3分の2以上の賛成多数で再可決された。衆院が法案を再可決するのは実に4年ぶりだが、この日の本会議ではさらに異例の事態が起きていた。
野田佳彦前首相が安倍晋三首相に対して行った代表質問は、自民党議員のヤジの激しさで質問の声が聞こえなくなる場面もあるほど。自民党出身の伊吹文明議長が質問をさえぎって「一国の総理を務めた人ですから、少し謙虚にお話を聞いてください」とたしなめ、民主党の岡田克也前副総理も、「政治家というより、それ以前の問題ではないか」と憤った。
公共事業批判でヤジがヒートアップ
野田前首相の質問時間は、安倍首相の答弁の時間と合わせて25分程度。冒頭、野田氏は安倍政権が進める「異次元の金融緩和」を
「体操競技で言う、ウルトラCを越えてE難度、F難度の業に挑戦しようとしている」
と例えて、出口戦略が見えないことに疑問を呈した。この時点ですでにヤジが目立つ状況で、伊吹議長は「はい、静粛にして!」と注意。
野田氏が公共事業費が増えていることを、
「国土強靱化という美名のもとに、また公共事業をばらまこうとしているのではないか。だとするならば、私は的外れだと思う」
と批判するとさらにヤジの声は大きくなった。ヤジの中身はほとんど聞き取れないのだが、聞き取れる中では、
「恥を知れ、恥を!」
といった品位に欠けるものもあった。
野田氏が、
「ぶ厚い中間層の復活こそが、成長の的でなくてはならないと、私は思います!」
安倍政権の成長戦略を疑問視すると、さらにヤジは激しくなり、ついに伊吹議長が、
「野田君、野田君、ちょっと待ってください。ヤジを飛ばしている諸君、一国の総理を務めた人ですから、少し謙虚にお話を聞いてください」
と割って入った。
「与党の第1党のトップの責任が一番大きい」
一度はヤジはおとなしくなったものの、今国会で議員定数削減が見送られたことに話題が移ると議場はヒートアップ。12年11月14日の党首討論で、野田氏と安倍氏は今国会中に定数削減の法案を成立させることで合意していた。結果として約束は反故にされた形で、このことを野田氏が、
「もちろん言い分はあると思います。野党のいろんな考え方があった。民主党がどうだこうだ。でも私は言い訳は聞きたくありません」
と非難すると、議場からは
「ええーーーっ!」
と大きな声。ヤジを飛ばした人は「民主党にも責任の一端がある」とでも言いたげだったが、野田氏は、
「与党の第1党のトップの責任が一番大きいことは当たり前じゃありませんか!」
と続けていた。
「人ごと」答弁に大きな拍手
これに対する安倍首相の答弁は、
「各党・各会派が責任をもって真摯に、かつ建設的な議論を進め、早期に結論を得る努力を続けていくことが大切だと考えている」
と、人ごとのようなものだったが、どういう訳か議場からは大きな拍手が起こった。
岡田克也前副首相は、6月25日付けのブログの中で、このときの様子を、
「感情的になることなく、しっかりとした骨太の質問をされたにもかかわらず、自民党の中で、特に若い当選1回の先生方を中心に、非常にレベルの低い野次が飛んでいました」
と指摘。席の位置から判断すると、ヤジを主に飛ばしていたのは自民党の「1年生議員」だったようだ。その上で、
「総理大臣を経験した人が骨太な質問をしているときに、あれはないなと思いました。これは、政治家というより、それ以前の問題ではないかと思ったのは、私だけではかったと思います」
と嘆いていた。
ただし、この程度の「お行儀の悪さ」は民主党にとっての攻撃材料としては迫力不足で、反転攻勢の糸口はつかめていない。