フリーキャスター辛坊治郎さん(57)が搭乗したヨットはなぜ遭難したのか。この太平洋横断プロジェクトの主体となった「プロジェクトD2製作委員会」が、ヨットに浸水が始まり辛坊さんらが避難する直前の映像を「ユーチューブ」に公開したため、2013年6月25日には各メディアが検証結果を報道した。
遭難の直接の原因となったのは、マッコウクジラとの衝突だった、と断じたテレビ局もある。
「ユーチューブ」で公開された避難直前の映像
今回の遭難は辛坊さんとブラインドセーラーの岩本光弘さん(46)が搭乗した「エオラス号」が13年6月21日朝に浸水し、救命ボートからSOSが発せられ海上保安庁や自衛隊が救助活動した。日本から1200キロ離れた太平洋上だった。岩本さんは救助された後に、
「3回下から突き上げられるような音がして。ドン、ドン、ドンという」
と証言していた。辛坊さんはこのとき寝ていたといい、海上にぶつかる物は何もないと確認していて、
「何かが当たるということは全く想定していなかった」
と語っていた。
そうしたなか、今回のプロジェクトの主体となったプロジェクトD2製作委員会は13年6月24日、「エオラス号」に設置していたカメラが撮影した浸水直前の「衝突時の映像」を動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップした。カメラは海面から高さ5メートルのポールに設置していたもので、脱出する直前に辛坊さんがカメラから保存データ(SDカード)を取り出したのだという。当初は海水で濡れた影響で再生できなかったが、データを復帰させ、海上保安庁に提出したあとで一般公開することにしたのだという。
映像は47秒ほどのもので、ヨットの先頭とその先の部分を映していたが、突然何かに当たったような衝撃がありヨットが大きく揺れた様子が映っている。
いったい何があったのか、この衝撃でヨットが壊れ浸水が起こったのかなどをプロジェクトD2製作委員会に問い合わせてみたが、
「今のところ原因は判明しておらず、引き続き検証を進めています」
ということだった。
「ヨットに気付かずに右側から衝突した可能性が高い」
この映像を元に各メディアも検証を行っていて、フジテレビの情報番組「とくダネ!」も25日の放送で特集を組んでいた。番組には東京海洋大学の加藤秀弘教授が登場し、映像を見た感想としてこう語った。
「間違いなくクジラの背びれが出ていまして、非常に特徴的なんです。マッコウクジラの背びれだと思います」
マッコウクジラの全長は12メートルから13メートルあり、クジラの中でも一番表皮の硬い種類なのだという。ヨットの全長が約13メートルだったため、モロにぶつかったとすればヨットが破損する可能性は充分あるという。
なぜクジラがぶつかってきたのかについて加藤教授は、ヨットは風や海流の流れを使って進むため、ノイズ(エンジン音)が出ない。
「ヨットの存在に気付かないままに、右側から衝突した可能性が高い」
と分析した。そして、捕鯨が行われなくなった今ではクジラの個体数が回復しているためこのような衝突は増えていくだろう、と警鐘を鳴らした。
番組では加藤教授の指摘を受けて、辛坊さんたちが遭難したのは「ジャパングラウンド」と呼ばれている海域でマッコウクジラが多く生息し、北上していく時期にあたる、と補足。マッコウクジラの頭の皮膚は硬いばかりでなく皮膚の厚さが30センチもあり、衝突すればフェリーが凹むほどだ、と解説した。今後ヨットを利用する場合は、擬似エンジン音などのノイズを発しながら航行する必要があるのではないか、などが話し合われた。