自民・公明・維新が共同で2013年5月29日、国会に提出した「児童ポルノ禁止法改定案」。児童を性的虐待から守るのが目的というが、ネットでは改定されると「マンガ、アニメが危ない」と騒がれている。
一体何がどう問題なのか。国会で安倍首相に切り込んだ、みんなの党の山田太郎参議院議員に話を聞いた。
―この問題に関心をもたれたきっかけは何ですか。
山田 実はマンガオタクでもアニメオタクでもないんです。ただ、会社経営をする中で、国から「これはダメあれはダメ」と言われるのにうんざりして、こんな状況はまずいなと思っていました。2010年の参院選の選挙活動の時に(編注:山田氏は12年に繰り上げ当選)、この問題が飛び込んできて、「このままではいけない」と思いました。
「肌の一部」が出ていればほとんどアウトになる可能性
―「マンガ、アニメが危ない」とネットで騒ぎになっています。法案のどこが問題で、危険なのでしょうか。
山田 法案本体の「5.その他、二 検討」の部分からいきましょう。「1.児童ポルノに類する漫画等(漫画、アニメ、CG、擬似ポルノ等をいう。)と児童の権利を侵害する行為との関連性に関する調査研究を推進する(…)2.児童ポルノに類する漫画等の規制及びインターネットによる児童ポルノに係る情報の閲覧の制限については、この法律の施行後三年を目途として、1の調査研究および技術の開発の状況等を勘案しつつ(…)必要な措置が講ぜられるものとすること」とあります。
要は「調査研究して3年を目途として必要な措置を講じなさいよ」ということです。法案では「児童ポルノの画像とマンガはほぼ同じもの」だという認識かもしれない。その時、問題になるのが「3号ポルノ」です。
「3号ポルノ」とは、1999年11月に日本で成立施行した、いわゆる児童ポルノ法で、処罰の対象となる3つの定義のうち、3番目にあたるものです。「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」というあいまいな規定で、赤ん坊の入浴シーンから、女子高生の水着姿まで、厳密に云えば「肌の一部」が出ていれば、ポルノマンガであるとなかろうとほとんどアウトになる可能性があります。さらに、「3年目途」というのは3年後とはいってないので、1年以内かもしれない。
こういう文言が業界の自主規制を誘引し、表現の自由が狭まる効果をもたらすのです。「マンガ・アニメはポルノに類するものであります」というのをなんとなく遠まわしにうたっただけで、こんなにすごい破壊力があるんです。
本当はマンガ・アニメ規制のほうが目的ではないか
―この改定案は何を狙ってできたのでしょうか。
山田 そもそもは「児童ポルノで写真を撮られてしまった子の権利を守るために、映像が流通しないようにしよう」というものでした。
でも、それとマンガ・アニメは関係がないですよね。実在しないキャラクターなのに、一体誰を何のために守るのか。「ドラえもん」のしずかちゃんの入浴シーンだって危ないのでは、と言われています。しずかちゃんの裸守ってどうするの、といいたいです。
――ではなぜ、アニメ・マンガが本則の文言にもりこまれたのでしょうか。
山田 麻生財務大臣にこの問題を質問したときに、「それでは小説はどうなるのですか」って聞いたら、「小説は子どもが読まない。マンガとアニメは子どもが読む」とおっしゃっていた。「子どもが読むものは規制しなきゃいけない」ということかもしれません。
この発想の背景には、広大な世代間の不理解があると思います。規制したい人たちは、いわゆる「ネット世代」の若者が好むマンガやアニメなんて見たこともないだろうし、彼らがそれをどう受け取っているかもわからない。
「気持ち悪いもの嫌なものはなんとなく取り締まっちゃえ。そういうものが世の中に氾濫しているから悪い文化があるし悪い子ができちゃうんだ。その延長線上に児童ポルノ愛好家がいるんだ」
こんなお粗末な三段跳び論法みたいなところがありますよね。わからないならわからないで、放っておけばいい。
―「児童ポルノで撮られた子どもの権利を守る」と「子どもが読むものを規制する」という2つの異なる目的が、1つの法案に入っています。
山田 「児童ポルノ」と「子どもが読むものへの規制」はわけてやればいい。マンガ・アニメ規制を外せば、ひょっとしたらもっと多くの支持が得られて、通せるかもしれないですよ。それなのに、2009年に否決されたときから一貫して二つを一緒の法案にしている。だから、本当はマンガ・アニメ規制のほうが目的で、「児童ポルノ」は言ってみれば隠れ蓑なんじゃないか。そんな意図があるんじゃないか、と感じています。
ただ、もちろん単純所持自体も問題ですよ。現在、単純所持が禁止されているのは拳銃と麻薬だけで、児童ポルノがそれに並ぶほどのものなのかは疑問です。それに「3号ポルノ」は裁量行政になりますから、自主規制だけでなく冤罪を生みかねない。
大手出版社から画像コンテンツ掲載をやめてしまおうかという相談
―「自主規制」は何が怖いのでしょうか。
山田 実は今回、マンガ・アニメという文言が盛り込まれたことで、実質的な規制が始まってしまっています。大手の出版社などからも、ウェブサイトへの画像コンテンツの掲載をやめてしまおうかという相談を受けていますし、最近の事例では「ヤフオク!」の規約に「ランドセルを背負った写真」はダメと追加されました。ランドセルを背負った写真が「エロい」ということでしょうね。こういう風に、何が問題になるのかはっきりしないので、グレーゾーンでもみんな怖いし、萎縮してしまうのです。
そして、法律は一度成立してしまうと簡単には変えられないので、状況はさらに酷くなります。「3号ポルノ」自体はグレーで「この表現がアウト」とただちに指し示すわけではないですが、たとえば編集者が作家に「ひっかかる可能性があるから、これはやめとこう」と言うようになるかもしれない。本当なら編集者は作家の表現を尊重し守る立場なのに、仲間内から自主規制がおきて、表現の自由が崩れていってしまう。
――今後、法案を巡ってどういう動きが予想されますか。
山田 今国会は会期末が近いので、決をとらないまま終わってしまうと思います。7月の参院選後のほうが怖いですね。自民党は参院で否決されるリスクも考えているでしょうから、今は意図的に一旦留めているのかもしれない。なので、自民党が参議院でも過半数を取ったら、次の臨時国会あたりで党議拘束をかけて出してくる可能性もあります。その時に、どういった形で出してくるかに注目したいですね。マンガ・アニメ規制を分離してくるかどうか。
自分が政治家になって初めて取り組んだ問題ということもあり、今後も何がなんでも反対で、やっていきたいと思っています。
山田太郎さん プロフィール
やまだ・たろう 1967年、東京都生まれ。麻布高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期過程単位取得満期退学。
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。その後、プライスウォーターハウスコンサルタント(現アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス)製造業部門マネジャー、米国ナスダック上場企業のパラメトリック・テクノロジー コーポレーション(PTC)米国本社副社長を歴任。
2000年、ネクステック株式会社を創業、代表取締役社長に就任。05年東京証券取引所マザーズ市場に上場。10年、株式会社ユアロップを設立。
12年に参議院議員に繰り上げ当選。農政改革、成長戦略、TPP、企業の海外進出、地域活性化などの政策や課題に取り組む。